翠の線が見える彼と見えない彼女と。
己の内側にある力を集めるように縮こまり、それから解放するように両腕を左右に大きくひろげる。翠の波動が自分から溢れるように外へと放出されていく。
そんな自分の姿を見据える視線を感じる。
(そないじっと見られたら恥ずかしいわ)
冬の朝を思わせる灰青の瞳に翠が映り込むことはないだろうに。
別の世界の人間ならあるいは自分と同じものが見えるかもしれない、というのは甘い考えだったのか。綱紀が特殊な人間というのは、天界でも変わらないようだった。
それでも、と彼は思う。
魔女だって彼から見たら随分特殊な存在だ。ミヤコ市にいれば目立つこと間違いない。それなのに奇抜な服装で魔法をあやつる彼女はいつだって堂々としている。
「それで、次はどこへ行くの?」
いたって自然に聞くその声だって。
——でもパートナーには見せない方がいいと思うけどね。
「……パートナーが受け入れてくれるんやったらええんかな」
「え、何?」
ぽつりとこぼした言葉は天界の彼方へと。リタの耳には入らなかったようだ。
「こっちの話。せやなぁ、次はあっちの扉かな」
翠の線がどこへ伸びていくのか。その先に彼女がいたら自分は嬉しいのかもしれない、と綱紀は翠の導きの先へと足を踏み出した。
First Written : 2024/12/07