フィンガーファイト

サガシリーズアンソロ『MIRACLE SYMPHONY 2』に投稿した作品です。
ヤーデ時代の幼なじみ達。


 

「ケルヴィン、勝負しろ!」
 突然の言葉にケルヴィンは目を丸くした。彼が日課にしている領内の巡回中、ギュスターヴが住む屋敷の前を通った時だ。彼の姿を認めて駆けてきたギュスターヴの第一声がそれだった。ギュスターヴと一緒にいたフリンとレスリーが背後で苦笑いを浮かべている。屋敷の前の大きな樹の葉が風でさらさらと揺れた。空には雲ひとつなく、よく晴れていた。
「いきなり何を言うか」
 そうケルヴィンが返すと、ギュスターヴはニヤリと笑って自分の右手を目の前に差し出してくる。王族とは思えない、ごつごつとした硬い手だった。
 握手か? と、ケルヴィンが怪訝そうな顔をしていると、ギュスターヴの手がケルヴィンの右手を捕らえて、ぐいと胸の高さまで持ち上げた。四本の指を自分の指に巻き込むようにして握り込むと、ギュスターヴの親指がケルヴィンの親指の上に重ねられ――もとい、ぎゅうっと押しつぶしてきた。
「よっし、勝ったな!」
 呆気にとられているケルヴィンを尻目にギュスターヴが一人で拳をあげて喜ぶ。次第に合点がいったケルヴィンが声をあらげた。
「おい、汚いぞ!」
 やれやれとフリンが肩をすくめる。不意打ちで仕掛けたらそうなることはわかっていただろうに。いや、彼のことだから、わかっていてやったというべきか。
「やるならちゃんと予告しろ! 正々堂々と勝負しろ!」
「ならもう一度やるか?」
「望むところだ!」
 レスリーもまた呆れて、片手を腰に当てた。いい歳して子供っぽい勝負を挑むギュスターヴもギュスターヴだが、それに応じてしまうケルヴィンも大概だった。
 ベンチに二人して向かい合って座り、目をギラつかせるギュスターヴとケルヴィン。もうこうなってしまうと止めるのも馬鹿らしく、フリンもレスリーも楽しむように茶々を入れる。
「ギュス様、がんばれ!」
「じゃあ、私はケルヴィンを応援しようかな」
「絶対負けん!」
「できるものならやってみろ!」
 
 そして戦いが始まった。
 
「こら、人差し指を使うな……!」
「利用できるものは利用するんだよ」
「そんな勝負があるか!」
「もう、ギュスってば」
「ケルヴィンもまけないで!」
「おい、フリン、お前どっちの味方だ」
「だから、それは反則だと言っただろ!」

 今日も平和なヤーデの青空の下、楽しげな笑い声が響く。


First Written : 2022/05/22