ギュスレスバレンタイン話。
沢山の贈り物を受け取るギュスターヴにレスリーは。
※後半はリマスタークリア後推奨です。
意中の男性に甘い菓子を贈り気持ちを伝える時節。外から帰ってくる度に大荷物を家臣に預けるギュスターヴにレスリーは眉を顰めた。
数多の女性達が渡した菓子は贈られた男の口に入ることはない。ギュスターヴ十三世には敵が多い。全てを毒味するわけにはいかないため、菓子はどれも等しく廃棄されるのだ。
「食べないなら最初から断ればいいのに」
レスリーが苦言を述べてもギュスターヴは悪びれもしない。
「受け取るっていうのが大事なんだよ。そのほうが食べてくれたかもしれないと想像する余地があるだろう?」
「それが無責任だっていってるの」
可愛らしく包まれた菓子が一つの大きな袋に無造作に放り込まれるのを見るのはあまり気持ちがいいものではない。その一つ一つは誰かが想いを込めたもののはずだ。その大小はともかくとして。
ギュスターヴが両手に抱えきれないほどの贈り物をもらい始めた頃から、レスリーも『義理で』渡すことをやめていた。城下でギュスターヴに群がる女性達とレスリーの身分に大差はない。
「渡してくれる女性達の気持ちを無碍にはできないさ」
軽薄だこと、とレスリーが相変わらず嫌な顔をしたままなのを見て、ギュスターヴは肩をすくめた。
「なに、彼女達だってそこまで本気なわけじゃない。相手を見つけて結婚するまでの娯楽——祭りのようなものだ」
「そういう人ばかりではないでしょう?」
中には真剣に彼を想って、何を贈るかに心を悩ませ、決死の思いで手渡した女性だっていたかもしれない。仕方がないことにせよ、このような末路を辿る贈り物にレスリーの心は痛む。
ギュスターヴはちらっと彼女に目をやってから、ふっと視線をそらした。
「こんな出来損ないと本気で添い遂げたいと思う人なんていないさ」
「ギュス……」
自虐的に笑うギュスターヴに、レスリーの胸は違う理由で苦しくなる。そんなことない、と否定しても届くまい。安易な慰めを拒むだろう彼にかけるべき言葉を探す。ずきずきとした痛みを堪えるように胸の前で自分の手を握ると、彼女は浅く息を吸った。
「……誰かが抱えた想いは、そう簡単に他人が決めつけられるものではないわ」
「……」
詰めた息をそっと吐き出すように発した言葉にギュスターヴは答えなかった。耳には届けど、さらに奥に辿りついたかどうかはレスリーには判断できなかった。
しばしの沈黙のあとに、彼はことさら明るい声をだした。
「心配しなくても、来月にはきちんとお返しを贈る。くれた娘は皆、顔は覚えているからな」
「あなた、本当にそういうところ、」
「尊敬する、か?」
「そんなこと言ってないわ」
軽く流すことにした彼にレスリーは嘆息する。半分呆れて、半分安堵して。複雑に絡み合ったものは容易には解けない。解けるものならとっくにどうにかなっていた。
ギュスターヴはパッとレスリーの方へ向き直ると、にっこりと微笑んだ。
「彼女達のかわりに、レスリーがくれたものを食べるよ」
「なんでそうなるのよ」
「そう言わずに、とびっきり甘いのを頼むよ。沢山もらっているのに一つも食べられない可哀想な俺に」
「調子良いのね」
甘い菓子で覆い尽くしてしまえば苦味もなかったことになるわけでもあるまい。頭ではわかっていながらも、つい流されてしまう。見てみぬふりを続けてしまう。
「私が毒を盛る可能性は考えないの?」
「レスリーはそんなことしない」
「そうね、それはあなたがするようなことだもの。あなたが盛った笑い茸の粉でフリンがどれだけひどい目にあったか、もちろん覚えているわよね?」
「あのときのフリン最高だったな!」
「もう、ギュスってば!」
面と向かって真っ直ぐに渡せる日などいつまでたっても来ないだろう。きっとそれでも良いのだ。
こうなったら到底食べられないぐらい甘ったるいものを作ってあげよう、とレスリーはギュスターヴを軽く睨みながらも心に決めた。
***
キッチンから甘い香りがする。
ギュスターヴが香りにつられて顔をのぞかせると、レスリーが彼に気がついて視線をよこした。
「ギュス、ちょうどよかった」
彼女は目の前にあるボウルの中身をくるりとかき混ぜた。
「甘いのがいい? それとも少し苦いくらいがいい?」
とろりとした茶色がまたくるりと回る。あぁ、とギュスターヴはそこで合点がいった。もうそういう時節なのか、と。
「俺にもくれるのか?」
「あなたに、あげるのよ」
レスリーはおかしそうに笑った。
「今となっては私からぐらいしかもらえないでしょう?」
それもそうか、とギュスターヴはようやく気づく。女性が想いを乗せた菓子を意中の人に渡す時節。ハン・ノヴァにいた頃はそれこそ数えきれないぐらいもらったものだ。そのほぼ全てを実際に口にすることはなかったのだが。
数こそ多けれどそこに真剣な想いはいくらあっただろうか。鋼の十三世への憧れ、興味が主たる理由で、『本気』の好意はそれ程多くはなかっただろう。例えあったとしても、それに応えることはギュスターヴにはできなかった。
「俺はレスリーからもらえればそれでよかったんだ」
「調子が良いのね」
「嘘じゃない。本命からもらえなければ意味がない」
絶句してレスリーの顔がみるみる朱に染まっていくのをギュスターヴは感慨深く見守る。お互いもう良い歳だというのに、それでもなお可愛らしいと思う。
「こんなことならもっと早くに言えばよかったかな」
「そんなこと今更言っても、私達はこういう風にしかできなかったでしょう。——でも、ありがとう」
平静を装ってレスリーは手元のボウルへと視線を注ぐ。その耳はまだ赤い。
片腕を失ってようやくこの場所を得ることができた。随分と回り道をしたものだと彼はしみじみと思う。不甲斐なさを感じつつ、こうして愛する女性の傍でまだ生きていられることはこれ以上ない幸運なのだとわかっていた。
「そうだな。とびっきり甘いやつを頼むよ。あとそれにあわせて濃いお茶を」
苦味と合わせたら甘味はいっそう甘く感じるだろう。
First Written : 2026/02/14
