サガフロ2の25周年にあわせて書きました。
ナイツ編の始まりから終わりに繋がる話。
三つ編みが目の前で揺れる。それがくるりとひと回転すると、それにあわせてスカートもふわりと揺れた。赤い頭巾の下から、口を尖らせたコーデリアの顔がのぞく。
「ちょっとナルセスさん! 私ごと燃やす気?」
ついさっきまで操っていた槍を両手で握りしめると彼女は年輩の術士を睨んで抗議を口にした。
「術士ならそれぐらい制御できる。もっとも、お前が急に馬鹿みたいに突っ込んできたら保証はできんが」
爆風で揺れた帽子を片手でかぶりなおしながら、ナルセスさんはひらひらと手で追い払うように彼女の文句をあしらった。むすっとしたままのコーデリアをタイラーさんが苦笑いを浮かべながら宥める。タイラーさんが槍の腕を褒めると、彼女も気を取り直して得意気に笑顔を浮かべた。
コーデリアの足取りが軽くなると、タイラーさんが僕を振り返った。
「ウィルも援護助かった」
労いの言葉に僕は首を横に振る。
「タイラーさんの力あってこそですよ」
戦闘面での頼もしさも含め、探索パーティーがよくまとまっているのは偶然出会えた彼のおかげだ。
「僕は今日皆さんと会えて、とてもついている」
そう、僕は——私は仲間に恵まれてとても幸運だった。
ヴァージニアが地を蹴って駆ける。モンスターに体当たりでも食らわせるかのような勢いで走る彼女はぶつかる直前で大きく背中を仰け反らせて杖を振りかぶった。
「先手必勝! 骨砕き!」
確かな手応えを感じたのか、唇に笑みを浮かべながらジニーが後ろへと飛び退る。
「プルミエール、行っちゃって!」
「もう、ジニーってば」
無茶をするんだから、と口にして赤茶色の髪を肩の下で切りそろえた女性が、その背格好に似合わないくらい大きな斧で敵の脚を横に薙ぐ。
「入りが甘い……」
彼女が苦々しくこぼすと、間髪を入れずに無数の雷がモンスターの身体に落ちる。
よろけて矛先を変えた敵を見て、たった今術を放った男は相棒に向かって叫んだ。
「グスタフ、そっちは任せた!」
「承知」
敵を待ち受けた金髪の男が、その両手に異なる様相の剣を構えて交差させる。刃をまともに受けたモンスターはどうと倒れ、ようやく動かなくなった。
「さすがグスタフ!」
「もうだいぶ弱っていたからな」
謙遜する彼の肩をヴァージニアが小突く。調子の良い彼女に半ば呆れ半ば愛しむように笑うプルミエール。はしゃぐヴァージニアとハイタッチを交わすロベルト。
「あの子にはまだ早いと思っていたんだが……」
「どうかしましたか、ウィルさん」
赤い頭巾をかぶったミーティアが、長い髪を揺らすようにして首を傾げた。こちらの話だ、と言って杖を握り直す。この両の手には深い皺が刻まれている。空腹を訴えて泣く赤子を腕に抱いたのはついこの前だと思っていたのに。
可愛い子には旅をさせよ、というやつだろうか。
ねぇ、ニーナ母さん。きっとそうなんだろう。
First Written : 2024/04/01