守るために

リアム編10話の妄想。バンガード襲撃の時、ギュスターヴ達は。


 

(なんだ?)
 振り下ろした槌の音に紛れて何かが聞こえた気がして、ギュスターヴは手を止めた。にわかに外が騒がしい。ぞわりとした感覚が肌をつたう。
 突如、轟音と共に部屋が揺れた。
 わっ、とフリンが叫び、レスリーが小さく悲鳴をあげてうずくまる。振動で窓がガタガタと鳴った。
「大丈夫か?」
 ギュスターヴは姿勢を低く保ったまま、カウンターを越えて彼女達に駆け寄った。
「私は大丈夫。今の音は一体?」
「ボク、外を見てくる!」
 フリンが扉を開けて駆け出し、そしてすぐさま戻ってきた。
「ギュス様、モンスターだよ! 町中が大混乱状態だ」
 ギュスターヴは壁に立てかけておいた剣を掴んだ。
「ヨハン、いるのか?」
「はい、ここに」
「僕もいます、ギュスターヴ様!」
 フリンの後ろからヨハンとヴァンアーブルが駆け込んできた。鬼気迫る表情の二人にそれぞれ頷くと、ギュスターヴは通りに飛び出した。
 あたりに立ち込める煙の中、懸命に目をこらす。先程のも何らかの爆発の音だったのだろう、ところどころ道が抉れ、屋台が倒れ火の手が上がっていた。そしてそこら中を徘徊する魔獣達。市民を守るように異界の戦士達が各々武器を持って立ち向かっている。
 悲鳴や怒声が響きわたる。
「ギュスターヴ!」
「ケルヴィンか!」
 声の方角を見ると、槍を振り払ったケルヴィンがこちらに向かってくるところだった。
「状況は?」
「詳しくはわからない。急にモンスター共が群れを成して襲ってきた。どこかに扇動者がいそうだが……」
「そうか」
「将軍を含め、戦士達がそれぞれ事態の収拾にあたっているところだ。ダリアスが不在の時に……いや、もしや、意図的に?」
 首を捻り思慮に耽けようとするケルヴィンをギュスターヴが制した。
「考えていても仕方がない。とにかく目の前のものを手当り次第片付けていくしかあるまい」
「そうだな。私は逃げ遅れた民の避難誘導と怪我人の救護に向かおう」
 ケルヴィンが頷き、ギュスターヴは後ろを振り返った。
「ギュス」
 水を纏った長剣の柄を握りしめたレスリーと目が合う。彼は一瞬息をつめた。
「……レスリーはケルヴィンと一緒に救護を頼む。フリン、ついてこい!」
「うん!」
「……わかったわ。くれぐれも気をつけて」
 レスリーは少し間を置いたものの、その指示を承諾した。
(ギュスターヴと共に行きたい……けれど)
 それが適材適所というものだろう。各自が出来ることをすべきた。
「こちらは任せろ、ギュスターヴ」
 言葉を飲み込んだ彼女と、その背を追う視線を悟ったケルヴィンが力強く応えた。
「……頼む」
 ギュスターヴは勘づかれたことに決まりの悪さをおぼえながらも、しかとその言葉を受け取る。目の前にいるのは約束を違えたことのない男だ。ケルヴィンが一緒なら、安心だ。
「ギュスターヴ様のことは私がお守り致します」
「僕も一緒に行きます!」
 ヨハンが静かにギュスターヴの前へと進み出ると、ヴァンも負けじと声を上げた。
「ヴァン、お前は」
「僕だってギュスターヴ様の従者ですよ。術が必要な場面もあるはずです」
 ギュスターヴの声を遮って、ヴァンは杖を持ち直した。譲るまいという確固たる意志を感じて、ギュスターヴもふっと笑みをこぼす。
「わかった、許そう。みな遅れをとるなよ!」
 ギュスターヴは、鋼の剣を鞘から引き抜いた。磨きぬかれた刃がキラリと光る。
 敵は数多、その全貌は知れず。それがどうしたというのか。
(ここで得た居場所を奪われてたまるか!)
 ギュスターヴは剣を一振りすると、爆煙の中へと飛び込んでいった。

 


First Written : 2022/12/12