テイルズオブシンフォニアよりユアン×マーテル。
過去サイトより発掘。
「ここから先にいけそうだよ!」
少年の声が頭上から降ってくる。
太陽の光をうけてキラキラと光る金髪に眩しそうに目を細めながら、ユアンは彼--ミトスを見上げた。
崖をするすると持ち前の身体能力を活かして一気にのぼりきったミトスは、頂上と思われるとこで彼等に手招きする。
ごつごつとした岩肌は、決して登りやすそうには見えなかった。
しかし、ここしか道はないのだ。
ふぅ、とため息をつくとユアンは少ない足場を利用して少しずつ登りはじめた。
上を見上げると、ミトスの視線は心配そうにこちらに注がれていた。
こちら……というのはユアンに、ではなく彼の後ろにいる人物に対してである。
ユアンは背後を振り返った。
ミトスの姉であるマーテルは、どこか登りやすいところはないかと思案しているようだった。結局、ユアンの辿った道を通ろうと必死に手を伸ばしてとっかかりに足をかけようとしている。
長いドレスが動きを制限していることもあったが、マーテルは元々運動神経がよい方ではない。その様子は危なっかしくて、過度の姉想いであるミトスでなくとも心配になってくる。
「マーテル」
見ていられなくてユアンは彼女に声をかけた。
服が汚れることも気にせず、至って真剣に崖を登ろうと努力していた彼女は、彼を見上げて小首を傾げる。
ユアンは、そんな彼女に黙って手をだした。
差し出された手をしばし見つめた後、マーテルはやっと意図を理解したようだった。
彼女は彼の顔をもう一度見上げてにっこりと微笑むと、自分の手を彼の手に重ねた。
しっかりとその小さな手を握ると、ユアンは彼女を一段一段ひっぱりあげるようにして崖を登る。
「ありがとう、ユアン」
「あ、ああ……」
頂上まであがると、彼女はまた微笑んで礼を言った。手を離すと、ユアンは極まり悪そうに頷く。
それまでやや複雑そうな表情をして見ていたミトスは安堵のため息をつくと、マーテルの腕をとった。彼女はかわいい弟にも微笑むと、彼に引かれるがまま歩を進めた。
仲睦まじい姉弟の背を見つめて、ユアンは微かに眉間にしわをよせた。笑いながら先へ進む彼等を見ていると、どこかピクニックにでもいくようである。
(全く……)
ユアンは自分の掌に視線を落とした。
その手にすっぽりとおさまってしまった小さな手の感触がまだ残っている。
マーテルの小柄な体は思ったよりも軽く、ずっと頼りなかった。
「こんなくだらない争いなんて終わらせるんだ。大樹カーラーンを復活させることができたら、ハーフエルフだって少しは認められるようになる」
そう信じて旅をしているのだ、とミトスは言った。
「今はまだ無理かもしれない。
でも、いつかはみんなが一緒に暮らせる世界をつくりたいの」
助けた人間に邪険に扱われてもなお、マーテルは微笑んでいた。
(戯れ言だ)
2人と出会ったとき、ユアンはそのように彼等を突っぱねた。
そんなことが本当にできるわけがない。
彼が、彼女が、語るのはただの甘い理想論だと。
彼等の旅についていくことにもなったのも、それを証明するためだった。
同族である彼等のことが気になったのもたしかなこと。
しかし、彼等の旅の目的に賛同していたわけではなかった。
(全くもって甘い……そう思っていたんだがな)
いつからだろう。
傷付きながらも、前を向いて歩く彼等に何かを感じはじめたのは。
純粋な眼差しの中に何かを求めるようになったのは。
彼女と目が合う度に、胸の奥で暖かい感情が溢れるようになったのは。
「姉さま、ユアン! 早くいこ!」
頭上から声をかけられ、ユアンはハッと上を見た。
急な斜面の上の方で、ミトスが彼等を見下ろしている。その少し後ろでクラトスも立っている。
「マーテル」
ユアンは振り返ると、彼の隣にいた彼女に手を差し出した。
彼女はユアンの顔に向かって優しく微笑むと、その手に自分の手を重ねる。
頼りなくみえた彼女の力強さを感じはじめたのはいつ頃だったか。
儚い印象をもつ彼女を守りたいと思い出したのは、いつ頃からだったろうか。
「行こう、マーテル」
「ええ、ユアン」
握った手を離さずに2人は、困難な道を登りはじめた。
頂上では仲間が待っている。
眩しさに目を細めながらも、ユアンは一歩一歩進んでいった。
掌の温もりを感じながら。
First Written : 200X/XX