薄紫の誓い

1251年頃のギュスターヴとフリン。


 

 ──あ、まただ。
 フリンは気づいた。彼の主君であるギュスターヴ十三世は随分と遠い目をしていた。
 マリーとの婚姻をきっかけにケルヴィンは本拠をヤーデに戻していたし、レスリーもそれについていってるので最近顔を見ない。自分とて諜報活動でしばらく留守にすることも多くなった。
 公務中は些か不真面目さも持ち合わせつつもやるべき事はこなしており、そのような顔は見せない。ハン・ノヴァの建設に関わることに限っていえば心底楽しそうにみえる。
 でもふとした瞬間に、ほんのわずかな時に、ギュスターヴの瞳が揺らぐのをフリンは見逃さなかった。
 フリンは知っていた。彼の主人が本当はとても寂しがり屋であることを。
 ギュスターヴはそういう時は散歩に出ることが多かった。中庭に佇む彼を見つけてフリンはそろりと近づいた。
「ギュス様、あけびだよ」
 フリンに手渡された紫色の果物を見てギュスターヴは目を丸くする。
「お前、一体どこから?」
 このあたりには自生してないはずだ。懐かしさの前にそんな疑問が浮かぶ。
「教えてもらったんだ。大丈夫だよ、ちゃんと買ってきたものだから。食べよ、ギュス様」
 敢えて昔と同じ言葉を選ぶフリンをギュスターヴは見つめた。
「フリン」
「何? ギュス様」
「生意気だぞ」
 ギュスターヴはまた目の前の果実に目を落とし、それを割ってかじりついた。
 

 


First Written : 2021/05/07