1242年。
ギュスターヴと海賊の後ぐらいのワイドで。港でギュスターヴを見つけたレスリーは。
ワイドの港は活気に溢れていた。積み下ろされたばかりの荷からは様々な香りがたち、露天で物を売り買いする人の声がきこえる。レスリーは腕から籠を下げて歩いてると、ふと目を上げたところに見知った人の姿を見つけた。船着場を見下ろせる小丘、腰まである木柵に頬杖をつき、彼は帆船が行き交う姿を何とはなしに眺めている様子だった。そこは忙しなく人が行き交う船着場とは違い人目にもつきにくく、いかにも彼がふらっと立ち寄りそうな場所だ。
レスリーが近づくと、彼は目線だけあげて彼女を見た。
「今日はケルヴィンじゃないのか」
その人――ギュスターヴは特に驚いた様子もなかった。
「私は通りかかっただけよ。その様子だとまた勝手に抜け出してきたのね」
レスリーは呆れて肩を竦めた。
「休憩だよ、きゅうけー。そっちこそさぼってきたのか?」
「一緒にしないでよね。異国のお茶が入ったと聞いて買いに来たの」
聞いてるのか聞いてないのか、けらけらとギュスターヴは笑って、彼女のために場所をあけた。レスリーも彼の横に並び、柵の上に籠を乗せるように抱えなおした。
人々の喧騒に混じって波の音がきこえる。ふわっと潮風が彼女達の髪をときおり揺らしていく。
レスリーはちらっとギュスターヴの顔を盗み見た。彼は何も言わず、水平線を見つめていた。
彼女は彼が先日とある帆船に乗ったという話を思い出す。事が事であったので詳細は伏せられていたが、異国の商船とか海賊とかいう言葉をレスリーはフリンから聞いていた。帰ってきたギュスターヴの顔はきらきらと輝いていたそうだ。
「また船に乗りたくなったの?」
レスリーはたずねた。
「そうだな……航海は楽しそうだ。でも小舟は嫌だな。小さいとひどく揺れるんだ。漕ぎ出すなら大きい船がいい」
それからギュスターヴは遠くを見たまま、彼のちょっとした冒険について話し出す。
ワイドで一国一城を手に入れたギュスターヴだが、彼の視線はさらに遠くを見つめている。
――ここもひとつの通過点でしかないのね
彼の旅路はどこまで続くのだろう。
レスリーはギュスターヴと同じように空と海が交わるその先を見つめた。
First Written :2021/05/09