戦闘終了後の綱紀とリタ。
魔物が完全に動かなくなったことを確かめてから、リタは詠唱の構えを解いた。
辛勝だった。あと少しでも長引いたら全滅の危機さえあった。
少し離れたところではボウやコマチが倒れている。そして彼女の目の前には彼らの『主』である青年も地に転がっていた。
先程までぐったりと伏せっていた彼の髪が揺れ、体を起こそうと身動ぎしたのがわかった。ほっと息を吐くとリタは彼の元へ歩み寄る。
顔をあげた青年の頬には擦り傷ができており、うっすらと血が滲んでいた。綱紀は正面に立ったリタを見上げると、照れくさそうに笑った。
「みっともないとこ見せてもうたな」
「そうね」
「うわ、そこは否定してくれへんのや」
リタのにべもない返事に綱紀が大袈裟に顔を顰めてみせる。
「そんなことないよー、とかそういうの欲しかった?」
「余計悲しくなるからええわ」
リタが差し出した手を掴んで立ち上がった綱紀は苦笑いを浮かべた。膝を手で払って服の乱れを整える彼を見て、リタは内心そっと胸を撫で下ろす。大事はなさそうだ。
(自分から狙われやすいところに立っているくせにね)
綱紀が、味方を庇うような立ち位置に自らを置いているのはリタにもわかっていた。クグツ達に守らせるのではなく、自ら前線に立つのは綱紀「らしい」ことなんだろうけど。
「回復の魔法はないんだからね、もっと気をつけてよ」
なるべく素っ気なく聞こえるようにつとめて発したリタの言葉に、綱紀はへにゃりと笑ってみせた。
First Written : 2024/12/07