まだ出会って間もないジニパの一コマ。
腹が減っては探索もできぬ、ということでジニー達はお互い紹介が終わったところで腹ごしらえをすることにした。
丸テーブルを囲うように四人——ジニー、プルミエール、ロベルト、グスタフは座り、それぞれ食事を注文する。文無しのジニーの分についてはロベルトが支払うこととなった。(出会いを祝して、という名目で彼はプルミエールの分も奢るつもりでいたが、プルミエールに固辞された為、ジニーの分も出世払いとすることに落ち着いた)
「へぇ、じゃあジニーちゃんのおじいさんはディガーなのかい?」
出された食事を口いっぱいに頬張るジニーをニコニコ見ながらロベルトが言った。
「ん、ふぁぶぁも」
「口に入ったまま喋らないでよ、ヴァージニア」
眉間に皺を寄せたプルミエールが、ジニーにグラスを差し出す。ジニーがそれを受け取ってごくりと嚥下した。
「うん、パパもディガーなの! ねぇ、プルミエール、ジニーって呼んでってば」
言ってるそばから、ジニーはフォークでベーコンを突き刺して口に運ぶ。よっぽどお腹が空いていたらしい。
はいはい、と適当に流してプルミエールは自分の皿のベーコンにナイフをあてたところで、ロベルトの視線を感じた。
「何か……?」
「いや、なんでもないよ」
じろり、とともすれば睨んでいるような彼女の目線にロベルトが首を横に振って、グラスに口をつけた。
(綺麗な食べ方なんだな)
初めて会った時の印象をふと思い出して、彼は相棒をちらりと盗み見る。寡黙な彼の相棒は、会話に加わることなく、静かに食事を口へと運んでいる。最初の頃と比べると多少の粗雑さが混じったとは言え、手つきにどことなく気品を感じるのは相変わらずだ。
(どこかいいとこのお嬢様なのかね? それにしてはそれなりに旅慣れてそうではあるが)
「ねぇ、ぐふたふぅ?」
頬を膨らませたまま、無口な相棒にいきなり気安く話しかけるジニーに、ロベルトはぎょっとする。プルミエールもまた驚いて手を止めた。
「それってクヴェルでしょ? 火のアニマを感じる」
ごくんと飲み込むと、ジニーはグスタフが自席に立てかけていた剣を指さす。
「っと、さすがディガーの血筋だな。そうなんだよ」
急なことに固まってしまったグスタフのかわりに、ロベルトが答えた。ぶっきらぼうというわけではないものの、積極的に会話する性分ではないグスタフのこと。子供と言える年頃のジニーにこんな風に話しかけられるのは慣れていないはずだ。仕事を請ける際のやり取りは主にロベルトの役目だった。
「ねぇねぇ、ちょっと見せて!」
僅かに警戒の色を見せたグスタフの様子が目に入っていないのか、ジニーが剣に手を伸ばした。
「駄目だ!」
ロベルトがあっという間もなく、グスタフが声を荒らげ、その剣を掠めるように胸に抱えこんだ。びくっと肩を震わせたジニーに気づき、グスタフが我に返る。
「……すまない、その」
急に叫んでしまったことを詫びつつ、グスタフの目が戸惑いに泳ぐ。助けを求めるような眼差しをロベルトに向けた後、グスタフは席を立って外へ出ていってしまった。
すっかり気まずい雰囲気になってしまった場に、やれやれとロベルトは頭をかいた。
「ジニーちゃん、悪いね。あれはちょっと特殊な代物らしくてね、俺も触らせてもらったことないんだよ。持ち主以外が下手に触るとアニマが暴走して焼かれるとかなんとかってね」
「そう、なんだ……」
ジニーはぽつりと呟き、そして勢いよく立ち上がった。
「私、グスタフに謝ってくるね!」
一言そう言い残して、ジニーは扉へと駆けていく。追いかけるべきか迷ったものの、ロベルトは席に残ることに決めた。あの調子なら多分問題ないはずだと食事を続けようとして、プルミエールが何事かを考え込むように手を止めたままであることに気づく。
「どうかしたか?」
「火のクヴェル、なのよね?」
「あぁ、そうだ。まさしく火の剣って感じだよ。プルミエールさんも興味あるのかい? 何、モンスターと戦闘になれば嫌でも見れるさ」
「……そう、ね」
どこか歯切れの悪い彼女の反応に首を傾げつつ、ロベルトは己の腹を満たすことに専念することにした。
First Written : 2022/10/30