酔い醒まし - 1/2

二日酔いとギュスレス。

 


 

 誰かが部屋に入ってきた気配がした。身の危険は感じない。むしろ、安らぎを覚えるぐらいだ。
 ほのかに香りがする。優しい、甘い香り。昔からよく知っている、好きな香りだ。
 そうだ、これは——

 
「ギュスターヴっ!」
 突如、ギュスターヴは眩しい光に射抜かれる。瞼の裏が急に明るくなり、彼は逃れるように大きく寝返りをうった。
 うぅ、と呻く彼の肩を叩く手がある。
「ギュス、ねぇ、ギュス。起きなさい」
 名を呼ばれ、ギュスターヴはゆっくりと眠りの淵から覚醒する。
「んー、あぁ、レスリー……?」
 顔だけ振り向き、ギュスターヴはぼんやりとベッドサイドに立つ彼女を眺めた。
「なんで、ここにいるんだ?」
 ゆっくりと瞬きを繰り返す彼に、レスリーは胸の前で腕を組んだ。
「あなた、また飲みすぎたでしょう? 深酒した翌朝の陛下は大層機嫌が悪く、近寄り難いと皆から畏れられてるのよ?」
「んん〜、そうなのか?」
「世話をする彼女達も可哀想でしょう? 今日はフリンもいないし。……フリンだって喜んであなたに叩かれてる訳じゃないんだから」
「それは……悪かった」
 ギュスターヴは上半身を起こそうとして激痛に呻き声をあげた。
「うぅ、頭が割れるように痛い」
「だから、飲みすぎなのよ」
「今日はもう休みでいいんじゃないか」
「ダメよ。もう皆待ってるんだから」
 ベットに逆戻りしようとするギュスターヴをレスリーが引き止め、急き立てる。
「ほら、ムートンさんはもう執務中よ。早く着替えて」
「うん、わかった。わかったから」
(そんな顔を真っ赤にしてまで怒らなくても)
 なんとか寝台から滑り降りたギュスターヴは大きな欠伸をし、またこめかみをおさえた。レスリーが彼の目の前に水を注いだグラスを差し出す。
「ほら、しっかりして」
 語気は厳しくも、気遣うような眼差しをうけつつ、ギュスターヴはゆっくりと水を飲み干した。
 
 
 その後、ギュスターヴの深酒は減った——どころか、少し増えたという。