ハリエレというか、エレン→ハリード。
その後どうなるかは…
「あそこは生きている者の行く所ではない」
そう口にしたハリードの顔が忘れられない。否定の言葉とは裏腹に瞳に渦巻いた感情にあたしは呑まれた。傷ついていた。
——傷ついたのだ、あたしも。
(嘘でしょ……)
エレンは宿にとった部屋で一人ベッドに転がっていた。まだ外では太陽が照りつけている。カーテンを閉めていない窓は光が持つ熱をも直につたえてくる。眩しさから逃れるようにエレンは自分の目を腕で覆った。
休むにはまだ早すぎる時間。旅の仲間は皆外に補給などに出かけている。同室のノーラも、しばらく留守にすると言ってエレンを一人にした。
ハリードに休め、と言われた。どちらかといえば休息が必要なのは彼の方だ。故郷の生き残りを見つけて、その人が語る話にハリードが狼狽したのは明らかだった。そしてそれを必死に隠して、何食わぬ顔をしているのも。
(バカみたい)
エレンは大きく寝返りを打った。明るさに背を向けて大きく息をつこうとしたが、どうにも胸の高鳴りがおさまらない。
ハリードが三日月刀を振るうときの腕筋に、低く心地よく響く声に、彼がふせたまつげがつくる影に。いちいち心が跳ね、見惚れてしまっていることにエレンは気がついてしまった。
戦闘中に注意力が散漫になるぐらいに。魔物に振り下ろしたはずの斧はその狙いを外し、エレンに落とされるはずの斬撃をハリードが弾いた。
その後思いっきり怒鳴られ、旅は中断された。
自分の失態にエレンは恥ずかしくなって縮こまった。全く情けない。こんな風に急に自覚して、動揺してしまうなんて。
一体いつから。
エレンはハリードとの出会いを反芻して首を横に振った。最初は口の悪いおっさんとしか思ってなかったはずなのに。
ユリアンがあっさりと自分のもとを離れ、サラの変化に思わず激昂した結果、ひとり取り残されてしまった彼女にハリードは声をかけてくれた。確かに感謝はした。だが、そこにはこんな感情なんてなかった。なかったはずなのだ。
(ほんと、バッカみたい)
自覚した時点で既に叶わない恋だなんて。
ハリードは傷ついていた。鈍いと言われるエレンでもなんとなくわかってしまったのだ。彼には故郷に想い人がいた。そしてその人をずっと探し続けているのだ。そんなハリードがエレンの方を向くはずもない。
「あー、バカだな」
今度は声に出して言ってみた。そうすると本当に馬鹿げてきてエレンは笑った。
こんなの私らしくもない。
そして、ハリードもバカだ、と。
「決めた!」
エレンは両脚を大きく振り上げると勢いをつけて起き上がった。
今日はゆっくり休む。そして明日、諸王の都へ行くことを提案しよう。ハリードが否定しても連れて行くのだ。噂がただの噂ならそれでもいい。確かめずに彼に後悔してほしくなかった。
エレンはパンッと自分の両頬を叩いてから、鏡に向かって笑ってみせた。
First Written : 2025/01/28エレン