愛しき呼び名

ギュスレス。その呼び名も特別。


 きっかけは些細なことだったと思う。

「ギュスターヴ! ねぇ、ギュスターヴ?! 聞いてるの? ねぇ、ギュスってば!」
 呼びかける声にもどこ吹く風だった少年はその時になってようやく少女の方を見た。
 ギュスターヴの目は呆気にとられたように丸く見開かれ、しばしレスリーのそれと視線を結ぶ。一瞬の間を経て、少年の唇の隙間からぷっと息が漏れて笑みがあらわれた。
「お前って、やっぱり変なやつだよな」
「何よ?」
 失笑される覚えはなく、少女は憤慨する。ギュスターヴの瞳は愉快そうに躍ったかと思うと、またぷいと逸らされた。
「あ、もう! ギュス、聞いてるの?」
「聞いてるよ」
「だから、ソフィー様がね」
「……これで母上は様付けなんだもんな」
「……何の話? ねぇ、真面目に聞いてよ」
「はいはい、そう耳元でぎゃんぎゃん言わなくてもわかってるって。今から帰るよ」
 むっと唇を尖らせつつ見張るように家までついてくる少女に、やっぱり変なやつ、とギュスターヴは心の中で呟いた。


First Written : 2025/08/03