ソローネとテメノス。
まことはあえての「誠」です。
——血の匂いがした。
咄嗟に伸ばした指先にソローネ自身の肌が触れた。喉の周りにあの首輪はもう無い。かわりにと皮膚を指でつまんでみた。
「そのようなことをしていたら痕がつきますよ、ソローネ君」
その一連の仕草を、旅を共にしている神官に見咎められる。やれやれ、と彼は大袈裟に肩をおとしてみせた。
「懺悔でもしますか? 『お仕事』のことを一つ一つ話してみたら、神も救いの手を差し伸べてくれるかもしれませんよ」
冗談、と彼女は笑う。
「思ってもいないくせに、よく言うよ」
「おや? これでも敬虔な信徒だったのですが」
「過去形になってるけど、名探偵?」
でも、とソローネはもう一度自分の首に触れた。
つまんだところを今度は指の腹で小さな弧を描くように撫でた。
「……その気になったら聞いてよ。そこら辺の神官よりは話しやすいし」
「光栄です」
テメノスは目を細めた。どこまで本気かわからないその笑顔が、今の彼女にはちょうどよかった。
First Written : 2023/04/26