背中から暖をとる

幻想水滸伝よりフリック×オデッサ。
過去の個人サイトに載せていた作品発掘。


 

たぶんそれは、1人の女性に戻る時。

 
 

 

爽やかな青空の日だった。

じめじめした地下から久しぶりに外に出る。
かといって戦場でもなかった。

仲間集めをかねた、ほんの気紛れ。

そう思うと、なんだか少し笑えた。

張り詰めすぎていた心を癒すには十分な天気。
危険と隣あわせなのかもしれないのに、このような晴天の前には緊張も意味をなさなかった。

彼女らしからぬ行為に、仲間は眉をひそめそうなものだが、彼等は彼女の行動に反対はしなかった。
彼女の意図を理解して、目をつぶってくれたのかもしれない。

何かがあればすぐ対処できるようにと共も連れている。

その共をかって出たのは、言わずもがな、彼で。
いつもならその申し出に彼女が反対するのだが、その日はなぜかそんな気にもならなかった。

ほんの気紛れ。

(……なんてね。)

本当のところ、この天気の前では自分の気持ちに嘘をつくのも馬鹿らしくなった、ということ。
志、責任や義務の壁で覆い隠した心が、雲の隙間から覗く太陽のように、顔を見せた、というところだ。

リーダーとしての責務や意気込みを取り払ったその先に残るもの。
それを受け入れてくれるのは、彼だった。
いつだって傍らにいて、彼女を見守っていてくれている。

今でも彼女から少し離れたところで座っている。
彼女が脱ぎ捨てた赤いマントのそばで、彼は剣の手入れをしていた。
視線を感じることはなかったが、彼が辺りに気を配っているのがわかる。

もしその敏感な感覚が何らかの危険を感じたら、その目は険しさを帯び、隙なく身構えることだろう。
彼がそうしないのは、この麗らかな天気のように、彼女達の危険を脅かすものがないという印。 

リーダーと副リーダー。

その距離は近いようで、遠い。
二人が同じ場所にいては危険が増すからである。

だからこそ、オデッサはフリックとは別行動をとってきたし、フリックにもそれを望んだ。
それは恋人らしからぬ行為だったけれど、解放軍のリーダーを名乗り、フリックに補佐を頼んだ彼女としては仕方がなかった。

一緒にいたい、という素直な感情は押し込めるのが常だった。
彼の実力は彼女が一番知っていたし、人手が足りない解放軍としては、優秀な彼をあちこちに派遣することも必要だった。
それが、ただひとりの女としてのわがままで、そばに置いておくことなどできない。

そう、だからこれは気紛れ。
 

オデッサは一つ伸びをすると、フリックの方へ歩いていく。
彼の後ろにまわると、そこに座った。

「オデッサ……?」

どうしたのか、と体を彼女の方にひねる彼を制し、オデッサは体を軽くそらした。
背中と背中がくっついて、優しい温もりが伝わる。

「……オデッサ?」

いつもと違う様子にフリックはもう一度呼び掛ける。
彼の背中に自分の体重を預けながら、オデッサは微笑んだ。

「たまには……いいでしょ?」
 
背中越しにフリックも笑ったようだった。

「ああ……、そうだな。」

オデッサは頷くと、そのままの体勢で空を見上げた。
 

たまには。
こんな日もいいでしょ?

少なくともこの青空は許してくれるから。

 


First Written : 200X/XX