RS世界でのギュス・レス・ケル・フリンのお話。
雪景色のバンガード。
扉を開けると外は一面真っ白だった。感嘆に漏れた吐息が白いもやとなり冷たい空気にふわりと消えていく。
雪景色のバンガードに、レスリーは一歩足を踏み出した。話には聞いた事があるし、絵でも目にしたことはある。しかし、ふわふわと舞い散る粉のような白が、一晩明けて絨毯のようにあたりを覆い尽くすのを見るのは初めてだった。
「あ、レスリーだ」
ひと足早く外に出ていたフリンが振り向き、彼女を見つけた。耳まで隠れたニット帽にもこもこと暖かそうなショートコート、足には長いブーツを履き、手には厚手の手袋という出で立ちだった。その傍らにはギュスターヴが似たような服装でしゃがんでいた。彼の場合は、手袋のみならずジャケットもところどころ白くなっており、一頻り雪の感触を楽しんだ後だとうかがえた。
「おはよう」
レスリーは手袋をしていてもかじかみそうになる指先を擦り合わせた。バンガードの住人に教わったようにそれなりの格好をしていたが、ふかふかの耳あてをしていても耳はひんやりと冷たかったし、うさぎの毛を使ったブーツは足首を温めてくれるものの、爪先はじっとしていたら凍えそうだった。
「おはよう。早いな……」
レスリーの背後からまた別の声がした。彼女が振り向くとケルヴィンが雪を踏みしめながら歩いてくるところだった。彼は膝下までのロングコートを着て、浅緑色のマフラーに顎を埋めるようにしながら身震いを一つした。
彼を見上げたギュスターヴが胸の前に真っ白になった手袋を見せた。
「ケルヴィンも触ってみろよ。表面はふわふわしてるぞ」
「足跡つけるのも楽しいよ」
「全く、子供みたいだな。生憎、私には今日することがあるんだ」
ケルヴィンがはしゃぐギュスターヴとフリンを呆れたように見つめる。
「なんだったっけ?」
「バンガードの子供達にプレゼントを配るのよね?」
首を傾げるフリンに、レスリーがかわりに答えた。
雪が降る季節には聖夜というものがあると、この世界に来てから聞いた。その日はみな家に帰り、家族など大切な人達と過ごす。いい子にしていた子供達には、眠っている間に素敵な贈り物が枕元に届く。
今日はまだその聖夜当日ではないが、それにちなんだイベントがあるらしく、ケルヴィンはその手伝いに率先して立候補した。常日頃から貴族の矜恃を持った彼らしい行動だった。
「私も手伝いに行こうかな」
「うむ、ならばレスリーも一緒に行くか?」
特に予定もなかったレスリーがそう呟くと、ケルヴィンが彼女に向き直った。その背後に忍び寄る影があった。
「……っ?!」
ぐいっとケルヴィンの首元のマフラーを後ろに引っ張ると、ギュスターヴがその襟足に雪の塊を落とした。背筋を流れる冷たく濡れた感触にケルヴィンがびくりと肩を震わせて、飛びあがった。
「ギュスターヴ! 何をするか!」
「ははは!」
彼を指さしてゲラゲラと笑うギュスターヴに、ケルヴィンは顔を真っ赤にして怒った。その形相にフリンが堪らず、ぷっと笑い声を漏らす。
「フリン、お前も!」
フリンに詰めよろうとしたケルヴィンの肩を今度は雪玉が直撃する。投げた張本人は上機嫌に笑ってみせた。
「ケルヴィン、遊ぼうぜ」
「服がびしょ濡れになるではないか! 風邪をひいたらどうするんだ、全く!」
ケルヴィンがそう言ってる間に、新たな雪玉が作られていく。今度は、当たる直前でそれを躱し、ケルヴィンも傍らの塀の上の雪をかき集めた。
(もう、ほんとに子供なんだから)
レスリーは突如始まった雪合戦に巻き込まれないように少し離れながらも、その顔は笑っていた。いつかあった日々が、このように再び訪れることに心から感謝しながら。
First Written : 2021/12/21