水着ヨハン企画にて書いたお話。
「ヨハン、いる?」
バンガードの鍛冶屋。工房の上はちょっとした住居スペースになっていて、工房の主であるギュスターヴと懇意にしてる者達のたまり場のようになっていた。
そこの一室をノックし、中から返事が聞こえたのを確認したヴァンアーブルは扉を勢いよく開き——慌てふためいた。目的の人物は確かにそこにいたが、上半身裸の状態だったのである。
「わっ、ごめん! 着替え中ならそう言ってよー」
「いや……」
「って、それ水着?」
よく見ればヨハンが下に穿いてる物は膝よりやや長い丈で下着よりもゆったりしている。全体的に真っ赤な布地には、暖かい地方に育つという大ぶりの花の模様が入っていた。
「ギュスターヴ様からいただいた。遊んでこいと」
「あぁ、なるほど……」
つい先日幼なじみ達とグレートアーチにバカンスに出かけたギュスターヴは帰ってきた時に大層ご機嫌だったことを思い出す。海辺の店で売られていた水着を発見したギュスターヴはヨハンを思い起こしてそれを土産に買ってきたとのことだ。
(それにしても派手だなぁ)
ヴァンは内心苦笑した。赤がヨハンが普段巻いているマフラーを想起させたのだろうが、いくら水着だとしてもビーチでも際立つ色彩ではないだろうか。
「それで、行くの?」
「うーん……。ギュスターヴ様にせっかくいただいたからな……」
ヨハンが歯切れ悪く答える。主からの贈り物に彼が喜んでいないはずはないのだが、どうも気がかりがあるみたいだ。
しげしげとヨハンを眺めていたヴァンはその原因に思い至る。
「あ、そっか……。目立っちゃうもんね」
衣服が派手なことは今更だ。だが、上半身がむき出しの状態では嫌にも目につくのだ——サソリの刻印が。肌に残る無数の傷も含めてヴァンには見慣れたものだが、ビーチにいる他の客を怖がらせかねない。主だったらそんなもの気にするなと一笑しそうなものだが。
(刺青がダメってお風呂もあるんだっけ……)
この世界の風習に想いを馳せながら、ヴァンはうーんと唸った。
「ねぇ、ヨハン。ギュスターヴ様からはそれだけもらったの?」
「ああ」
「うん、じゃあ着替えて。買い物に行こう」
「……?」
「ラッシュガードって言ってね、水着みたいに着られる服があるんだよ。ついでに僕も自分のものも見繕いたいし。日焼けは痛いからね」
「ヴァンもそのラッシュガードというやつを買うのか?」
腑に落ちない様子のヨハンの顔に人差し指を向けるとヴァンはニコリと笑った。
「まさか一人だけで海に行かないでしょう? 僕がついていってあげるよ」
仕方ないよねぇ、と言いながらも浮かれた様子のヴァンアーブルを見つめ、ヨハンがふっと息を漏らすように笑った。
First Written : 2024/07/15