ウィルの旅立ちのナルセスさんのイメージ。
新米ディガーと、これまた駆け出しのヴィジランツ。それなりに大きな一行と仕事をするつもりが、何故か子守をする羽目になってしまった。元々探索を共にする予定だったリーダーが気にくわず、酒場に残ることを決めたのだから仕方がない。稼ぎが何もないよりはいいだろう。一泊滞在するだけでも金はかかる。それに、ハンの廃墟という初心者向けの遺跡でも、一人ではさすがに無謀というものだからな。
ところが予想に反して、この新米ディガーは侮れなかった。確かに無駄な動きは多いし、戦闘においては未熟だ。実戦経験はほぼ無いに等しいのではなかろうか。しかし、術の操り方には他の者にはない天性の才を感じた。たまに、そういう奴がいる。
そして恐ろしく強運だ。私がこのように同行することになったのも、その運ならではともいえるだろう。新米同士で命を散らさずにすんだのだから、それだけでも幸運だ。
アニマにも敏感で、空箱と誰もが通り過ぎたものの奥底からクヴェルを三つも探し当てた。ディガーの家系らしい。もって生まれたものがあるってのは羨ましいことだな。
小娘も、酒場での言葉は大言壮語とも言い切れなかった。技は拙い。しかし、短時間で習得する柔軟さを持っていた。それでもまだまだひよっこだ。およそ足元にも及ばない。あと口の聞き方がなってないな。全く、謙虚さが足りないのではないか。
そして、廃墟で出会ったこの男。ウィルが野盗かと思った、と面と向かって口にした時は肝を冷やしたが、怒るどころか笑って連れ立ってくれるという度量の広さは、私には到底真似できない。尤も、真似しようとも思わないが。
経験は豊富なようで、自然と周りに合わせるように動く。他の二人とは違い、私の術の射程範囲には決して入らない。武骨な見た目に反して気配りができるようだ。何より子守を任せられるのが楽だ。おかげで終始イライラするのを免れた。
こうして、当初懸念していたより実りのある探索となったわけだ。
すぐに戻ってくるとウィルは笑顔で言っていた。またお願いします、と眩しすぎるぐらいの笑顔でだ。社交辞令と流すところだが、あいつはきっと本気で言っている。
私の軽口を物ともしない真っ直ぐな瞳に、こちらが恥ずかしくなってくるのだから困ったものだ。あれは人をたらしこむのがうまいに違いない。小娘がそわそわしだすのも無理もない。そのうち女で苦労するのではないか、と余計なことまで考えてしまった。
……。
ヴェスティアの魚は美味い。もうしばらく滞在しても構わないだろう。
First Written : 2022/04/01