ウィルコー。奮闘するコーデリアさんと微笑ましく見守るタイラーさんのお話。
タイラーはヴェスティアの馴染みの宿酒場のカウンターで食事をとっていた。ディガー稼業は各地を転々とするものだが、この町は気に入っていた。こうして窓際の席も所定の場所となり、マスターとは言葉を交わさなくてもお気に入りの酒が出るようになっている。
食事を終え、一息ついたところで誰かが背後に立ったことがわかった。
「ちょっと付き合って」
酒場で若い女から声を掛けられる──といえば聞こえはいいが、その乙女は物騒な武器を胸の前に握りしめていたのでそういう色っぽい雰囲気は微塵もなかった。
「どうした、そんなに口を尖らせて」
タイラーがゆっくりと振り返ると、赤い頭巾がトレードマークの娘は口をへの字に曲げて、睨んでいるといってもいいような目付きをしていた。タイラーに身に覚えはなかったので、おそらく彼とは別の要因によるものだろう。そう推察していると、その娘──コーデリアが再び口を開く。
「お願い、稽古をつけてよ。私、もっと強くならないといけないの」
タイラーは片眉をあげた。仲間の術士にまた嫌味でも言われたのかと思いきや、どうもそうでは無いらしい。
「だってぇ〜」
タイラーが話を促すと、コーデリアは情けない声を出して彼の横の椅子に腰掛けた。
ハンの廃墟で初めて組んだ彼らはこの酒場を拠点として度々発掘に出かけていた。新人ヴィジランツのコーデリアと、同じく新人のディガーであったウィル・ナイツも実践を通じて着々と力をつけており、モンスターとの戦闘においても良い連携をできるようになってきた。
「でもね、ウィルがいつも『危ないよ?』って確認してくるの」
ウィルが発掘に行くという度に嬉々として彼に同行を申し出るコーデリアなのだが、そんな彼女に対してウィルがそう問いかけるのだという。なるほどな、とタイラーは納得する。ウィルにも思うところはあるんだろうが、どうやらそこは伝わっていないらしい。若さに微笑ましくなるが、それを口にするほどタイラーは無粋ではない。
「ヴィジランツはディガーを守るためにいるのよ 嫌になっちゃう」
「それで、強くなりたい、ということか」
「そうよ。文句言わせないぐらい強くならなきゃ駄目なの」
眉をつりあげていたコーデリアがそこでふっと顔を緩めた。カウンターの上のグラスに目を落とし、また口を尖らせるようにすると、小さく呟く。
「だってそうじゃなきゃ、選んでもらえないでしょ」
彼女の耳の端が赤く染まるのを横目で見ながら、タイラーは心の中で笑った。
First Written : 2022/02/27