願いを叶えるために

あの空に虹を、のサル→エレ。

 


 

「どうしたのよ?」
 飛び散る雫で濡れた前髪を、長く細い指が払う。そんなちょっとした仕草に見とれてしまう。
「そんなに意外だった? 私が、こんなお金にならないことをするなんて」
 真っ直ぐに僕を見つめる瞳が細められる。仕事にシビアな彼女は、村から出たばかりの僕にいろいろ教えてくれた。無知は時に命を危険に晒す。見返りを求めないお人好しもまた然り。
 でも口上とは裏腹に、その眼差しはいつもあたたかい。今はそこにからかいの色を感じ、頬がじわりと熱くなる。
「心配しないで、あなたの取り分はちゃんとあるわ」
「そういうつもりでは」
 ようやく言の葉を紡げた僕に、彼女は首を横に振る。
「お金は大事よ。生きていくためにも」
 紅が際立つ唇が閉じられ、ふっと吐息が漏れ出る。あきれたようにも、どこか羨ましそうにも聞こえた。
「——あのように、誰かの願いを叶える為にも」
 彼女が顔を上げるのにつられて、僕も空を仰ぎみた。
 そこには、視界を覆い尽くすように大きな虹がかかっていた。

 


First Written : 2022/04/26