剣を胸に

ギュスレスですが、ギュス様出てきません。
インサガでレスリーが思いっきり戦ってるので、なんとなく思いついた話。
(話自体はサンダイルの話です)

 


 

「本気で、言っているのか?」
 ケルヴィンは自分の執務室を訪れた人物に問いかけた。その人――­­レスリーは答える。
「ええ、本気よ。だからお願い、私に剣を教えて」
「しかし、レスリー、君は」
 続く言葉を飲み込んでケルヴィンは軽く頭をおさえる。
 レスリー・ベーリング。彼女はグリューゲルの名家の娘だ。彼女がヤーデ伯の元に来たのは行儀作法の修行のためだったはずだ。それがギュスターヴと再会し、ソフィー様の世話をすることになり、実家に帰ることなくここにいる。ギュスターヴがワイドを奪取する際に彼についていったこともだが、彼女がその頃から男装することが多くなったのもケルヴィンには想定外のことだった。
 その次に剣術とくるとは。レスリーは彼の侍女という形できているのだが、そろそろ彼女の実家に対して言い訳がしづらくなっているのも事実だった。
「もちろん、貴方が、とは言わないわ。誰か師となって貰える方を紹介してもらえればいいの」
「しかし、何故剣なのだ。レスリーは術も堪能だろう」
 ケルヴィンは剣術の心得はあるものの、戦士というよりは術士だ。武器で戦うにしても槍を獲物にすることが多い。術士は後方支援が主だった動きになる。まさかそれ以上を想定しているというのか。
「ケルヴィン。貴方もわかるでしょう。これから、ますます危険な道になるわ」
 ギュスターヴの父であるフィニー国王が亡くなったと伝えられたのはつい先日のことだった。
「自分の身は自分で護れるようにならないと。術だけでは咄嗟に動けないかもしれないわ」
 それに、とレスリーは心の中で思う。剣を使えれば、彼に少しだけ近づけるかもしれない。護られるばかりでなく、彼を護ることができるかもしれない。
 ワイドを手に入れた後、民衆の大半にはすんなりと受け入れてもらえたが、それでも快く思っていない人もいた。ギュスターヴはまだ何も決めてはいないが、もし東大陸に帰ることになれば、彼はそれとは比べ物にならないぐらい敵を増やしていくことになるだろう。その時に足でまといになるようではいけないのだ。
「……わかった。護身術ぐらいであれば、誰かあたってみよう」
 息をついてケルヴィンは遂に折れた。レスリーはふわっと笑顔を浮かべる。
「ありがとう、ケルヴィン!」

 去りゆくレスリーを見送ってケルヴィンはまたため息をついた。
「しかし、ギュスターヴのやつがなんというか…」
 戦に参加すると言い出したらどうしようかと思ったが、さすがにそこまでの話ではなさそうだ。万が一そんなことになったら――そうなる要因をつくったケルヴィンにギュスターヴは黙っていまい。下手したら殺される。
 ケルヴィンはレスリーが怪我などしないことをただただ祈るのであった。

 


First Written : 2021/03/28