視線

1256年 ハン・ノヴァにて。
「アニマ教の噂」直後のイメージ。暗め。
別作品の「睦言の葉」に続くようなイメージです。

 


 主人の帰りを迎えたハン・ノヴァはどことなく重苦しい雰囲気が漂っていた。
 ハンの遺跡では多くのアニマが失われた。それは戦と呼べるものでは到底なかったという。
 
「ギュスターヴ」

 恐れを持って呼ばれたその名前。
 
 レスリーは城の一室で彼を見つめていた。彼は結った髪を解く。パラパラとこぼれ落ちるような金糸を彼女は見つめていた。それは鈍色に見えた。
 まるで怨嗟がまとわりついているようだ。
 彼女はそう思った。
 物言わぬ彼女の眼差しを受けて、彼が目を細める。

 ――俺を責めるのか

 ともすれば、睨みつけるような鋭い瞳だったが、彼女はそのさらに奥を覗き込もうと真っ向から視線を交えた。

「ギュス…」
 
 口を開いたレスリーを制すように、ギュスターヴは彼女を抱き寄せた。

「ここではそういうことは言わない約束だろう」

 耳元で囁かれる声にレスリーは瞳を閉じる。その声に、少しの怒りと、哀しみの色が混じっている。
 そう、彼だってきっと分かっているのだ。

 止められないのならば、せめてそのまま受け入れよう。彼の怒りを、彼の痛みを。彼の恐れを、彼の弱さを。

 


First Written : 2021/04/07