言葉もなく - 2/2

<Side L>

 ソフィーとギュスターヴの親子がグリューゲルを離れるらしい。
 そんな噂から数週間後、果たして彼らはグリューゲルの門前にいた。門前の広場はソフィーとの別れを惜しむ人達が集まっていた。
 レスリーはその人だかりの少し後ろで、ソフィーではなく、彼女の傍らにいる少年を見ていた。ソフィーの息子、ギュスターヴには友達がいなかった。東大陸の王族であるという立場と術不能者であること、また彼の乱暴者としての評判もあり、彼を見送るものはいない。
 彼もそんな場所との別れは名残惜しくもないのだろう。レスリーは思った。
 ギュスターヴはつまらなさそうに足元を見ていたが、ふと顔をあげて彼女に気づいた。目と目が合い、一瞬時が止まったように感じる。その呪縛から逃れるようにレスリーは顔を逸らし、その場をあとにした。
 いい思い出もあまりないだろう。きっと彼女のこともすぐ忘れるに違いない。
 レスリーは少しだけ泣きそうになった。何と言い表せばいいのかわからない気持ちを抱いたまま、レスリーはそっと彼らの新地での幸福を祈るのであった。

 


First Written : 2021/04/17