<Side L>
ソフィーとギュスターヴの親子がグリューゲルを離れるらしい。
そんな噂から数週間後、果たして彼らはグリューゲルの門前にいた。門前の広場はソフィーとの別れを惜しむ人達が集まっていた。
レスリーはその人だかりの少し後ろで、ソフィーではなく、彼女の傍らにいる少年を見ていた。ソフィーの息子、ギュスターヴには友達がいなかった。東大陸の王族であるという立場と術不能者であること、また彼の乱暴者としての評判もあり、彼を見送るものはいない。
彼もそんな場所との別れは名残惜しくもないのだろう。レスリーは思った。
ギュスターヴはつまらなさそうに足元を見ていたが、ふと顔をあげて彼女に気づいた。目と目が合い、一瞬時が止まったように感じる。その呪縛から逃れるようにレスリーは顔を逸らし、その場をあとにした。
いい思い出もあまりないだろう。きっと彼女のこともすぐ忘れるに違いない。
レスリーは少しだけ泣きそうになった。何と言い表せばいいのかわからない気持ちを抱いたまま、レスリーはそっと彼らの新地での幸福を祈るのであった。
First Written : 2021/04/17