一曲いかが?

ヤーデ時代の4人組のお話。
ヤーデ伯の屋敷で舞踏会が開かれる。


「舞踏会?」
 フリンがたずねた。ヤーデにあるギュスターヴ達の家のほど近くに彼らはいた。天気もよく、やわらかな日差しの中で四人は思い思いの場所でくつろいで談笑していた。
「ああ。今度屋敷であるパーティーの夜にな。普段なら参加しなくていいんだが、今回は私と歳の近いご令嬢も招待されてるらしくてな…」
 ケルヴィンがこたえ、樹にもたれかかって座っていたギュスターヴが茶化す。
「ご令嬢? 縁談か?」
「そういう訳ではない……と思うが」
「せいぜい足を踏まないようにな」
 これにはケルヴィンもムッときたようだった。彼は腕を組んで不服そうに言った。
「それくらいの嗜みはある」
「どうだかね」
 頭の後ろで手を組み、ふふんと鼻で笑うギュスターヴに、ケルヴィンは顔をしかめた。彼はくるりと向きを変える。
「……レスリー、ちょっと相手をしてもらってもいいだろうか?」
「えっ?」
 ベンチに座ってそのやりとりを見ていたレスリーは急に話をふられて驚く。
「相手って…お作法として少し習っただけよ?」
「いいんだ。ダンスは男性がリードするものだからな」
 ケルヴィンはそう言い、彼女の正面に立つと恭しく手を差し伸べた。レスリーはその手を取り、作法通りにスカートの端を摘んでお辞儀をする。彼女は少しはにかんで笑った。
 ケルヴィンの手がレスリーの手をふんわりと包み、彼女の腰に反対の手を回した。一歩一歩とワルツを踊り出す。
「わぁ! ケルヴィンもレスリーも上手だね、ギュス様?」
 次第に軽やかになる二人に、フリンが感嘆する。対して今度はギュスターヴが面白くなさそうに眉間にしわをよせた。
「ちょっと、俺にも教えろ」
「ギュス?」
 すっと立ち上がるとギュスターヴはケルヴィンとレスリーの間に割って入り、レスリーのかわりにケルヴィンと向き合った。ケルヴィンが片眉をあげた。
「……私に娘役をさせる気か? お前がリードできるのか?」
「ごちゃごちゃ言うなよ。これでも作法は知ってる」
 ギュスターヴはケルヴィンの手を問答無用でとる。
「痛っ! お前わざとだろ?!」
 腰をつねられケルヴィンが抗議するのをレスリーが呆れた様子で見つめる。フリンは面白そうに笑ってギュスターヴに睨まれて慌てて口元を隠したが、忍び笑いは止められなかった。
「ソフィー様に教えてもらえばいいだろ」
「嫌だよ、恥ずかしい」
 ぶつくさとお互い文句を言いながらも二人の足運びは滑らかであり、ステップは次第に速くなる。
「うーん、ボクも踊ってみたいなぁ」
「ふふっ、じゃあやってみる?」
 フリンが言うと、レスリーは彼の前でも一礼する。フリンも真似して恭しくお辞儀をすると、レスリーの手を取った。
「あ! ちょっ、フリン、お前!」
 ギュスターヴの叫び声をよそに、レスリーとフリンはくすくす笑いながら踊り出すのであった。

 


First Written : 2021/05/02