その言葉だけが欲しい

ギュスレス。いちゃついているように見えて…な話。

 


 

「行かないで」
 あなたの背に両手を伸ばす。そんなことで捕まえられるあなたではないし、捕まえてはいけないのだとも知っている。
「……なんて言っても無駄なのでしょう?」
 ギュスターヴは少し笑いながら、うん、と頷いた。
「でも、もう一回言ってくれないか」
 あなたが私の腰に腕を回す。そうやっても私はあなたのものにはならないし、なれないのだというのに。
「聞く耳なんてないくせに」
「うん」
 悪びれずに答えるあなたが憎らしい。
「南に何があるって言うの。ここにいればいいのに。ムートンさんだって心配して、」
「そういうのは聞きたくない」
 私を抱く腕に力がこもり、私の言葉を奪っていく。強引に、でも優しくて。
「レスリーの言葉だけ聴きたい」
「話を聞いてくれるならね」
 わがままを言うあなたに素直に応えるのも癪で、かわりに私はこう言った。
「必ず帰ってきてよ」
「……うん」

 曖昧な言葉だけ残して、あなたはいってしまった。

 


First Written : 2024/12/21