こどものたわむれ

ギュスレス。
ケルヴィンとチャールズの会話。
子供相手にもいいと言えないギュス様。


 

 
「ちちうえ、ぼくがレスリーとけっこんしたら、おじうえがこまるのはなぜ?」
 まだ四歳のチャールズにそう尋ねられ、ケルヴィンは飲んでいた紅茶を噴き出しそうになった。なんとか堪えて息子を見やると、無邪気な瞳はまっすぐケルヴィンに向けられたままだ。
「誰がそんなことを言っていたのだ?」
「おじうえです」
「ギュスターヴが?」
「はい」
 
 
 大きくなったらお母様と結婚したい、と言ったチャールズに、ギュスターヴは小さく笑いながら「それは無理だなー」と答えた。
「お前のお母様はお前の父親と結婚しているだろう? それに子供は親とは結婚できないんだ」
「そうなの?」
「残念だがそう決まっていてな」
 ギュスターヴの大きな手がチャールズの小さい頭をくしゃりと撫でた。わしゃわしゃと髪が乱されるのを甘んじて受けながら、チャールズは伯父を見上げて再び問うた。
「じゃあ、レスリーとならけっこんできる?」
 やわらかい茶髪を弄んでいた手がピタリと止まる。うーん、とギュスターヴは唸ると、こう言ったそうだ。
「それは困る」と。
 
 
「それでギュスターヴはどうしたんだ?」
「どうしてもだめだといってました。あとこれはないしょだぞって」
 そこでチャールズははっと慌てたように両手で口を隠した。
「これもないしょだった」
 幼い仕草にケルヴィンが思わずふふっと笑うと、チャールズは眉をさげて泣きそうな顔をする。
「おじうえにはいわないで」
 隠した口から小さく漏れる声をきけば、ケルヴィンはチャールズの頭に優しく触れた。
「誰にも言わないから心配するな」
 ほっと顔をゆるませてチャールズは嬉しそうに父の手を受け入れる。それで気が済んだのか、自分の問いも忘れてチャールズは部屋を駆け出していった。愛らしい息子を見送った後、ケルヴィンは盛大なため息をついた。
(全く……子供と張り合うぐらいなら、本人にさっさと伝えたらいいものを)
 マリーにも話したいところだが、チャールズと約束した手前それはできない。言ったら共感して一緒に呆れてくれるだろうが、部外者が何を思ったところで現状は変わらないのだ。
 この歯痒さに何年付き合わなければならないのだろうと、ケルヴィンは頭をかかえるのだった。
 


First Written : 2024/12/28