今宵は - 1/2

前半ケルマリ、後半ギュスレス。

そのつもりはなかったのに口に出しちゃったケルヴィン、その思いを汲み取って敢えて口に出すマリー。
わかってて言えなかったギュスターヴ、言えないのがわかってるレスリー。


 

 日が落ちてしばらくした頃。消え入りそうな控えめなノックに、聞き間違いかと疑いながらもこたえると、扉の前に思わぬ人物が立っていてマリーは目を丸くした。
「邪魔だてして申し訳ありません。もう寝るところでしたか? そうであればすぐに失礼致しますので」
 彼女の兄であるギュスターヴの親友、ケルヴィンが早口で一息に言い連ねる。マリーはその勢いにやや圧倒されるも、微笑んで首を横に振った。
「いえ、まだです。何か御用でしょうか?」
 その、とケルヴィンは言い淀む。何度も脳内で繰り返した言葉を探して、彼は再び唇を開いた。
「よろしければ、散歩に出ませんか?」
「散歩……?」
 マリーが口の中で小さく繰り返した言葉と、二人の間に流れる僅かな沈黙にいたたまれなくなり、ケルヴィンは慌てて二の句を次ぐ。
「今宵は月が綺麗ですから」
 マリーが口許に手をあてて数回瞬いて黙り込んだのを見て、ケルヴィンは自分が口にしてしまった言葉の意味を理解し、さっと頬を紅潮させた。
「あ、いや、その、月がいつもより明るくてですね……!」
 慌てて弁明し出すケルヴィンを上目遣いに見つめると、マリーは答えた。
「私でよろしければ、喜んで」
「え……?」
 硬直するケルヴィンの姿に、マリーは心があたたかくなっていくのを感じてふわりと頬をほころばせた。
「今宵は月が綺麗でしょうから」