RS世界での鍛冶屋ネタ。
第二部でギュスレス揃って実装が嬉しくて書いたもの。
「それにしても意外ね」
ギュスターヴが奥から一振りの剣を取り出すのを見ながら、レスリーが口にした。
「あなたがここを引き受けるなんて」
ここはバンガードという都市の鍛冶屋。ヤーデのそれよりは幾分大きく、設備も整っている。そしてギュスターヴはここの主、ということになっていた。親方に弟子入りして自らの剣を鍛え上げたとはいえ、このように武器や防具を求めてきた客の相手をしているっていうのはどうにも不思議な光景だった。
「うん、まぁ……人手が足りないと頼み込まれればな。それより、出かけるのか?」
「ええ、新しいパイロットが見つかったんですって」
レスリーは、新しいパイロット——リアムと言うらしい——彼の初飛行に同行することになったのだ。向かう先は異界の戦士がいるという『扉』。『扉』が通じる異世界には彼女達がいた世界と同様、魔物が出現することも少なくない。微妙な顔になったギュスターヴを見てレスリーは笑った。
「大丈夫よ。あなたが鍛えた剣は強いのでしょう?」
「……当たり前だろ」
ギュスターヴがカウンターに置いた剣はレスリーが使用する為のものだ。黒鉄の剣——金属製の武器でありながら水術を引き出す力があるという。サンダイルでは考えられないことだった。この世界では、彼女達の常識は通用しない。アニマに縛られないこの世界ではギュスターヴもより自由に生きられるのかもしれない。そうだったらいい、とレスリーは思う。
なおまだ何かを言いたそうな顔のギュスターヴだったが、扉に取り付けられた鈴がチリンとなる音に気づき視線を入口に向けた。
「レスリー、準備はできた?」
今回の『扉』へと一緒に向かうメンバー——術士のルージュが店を覗き込んでいた。
「ええ、もう出るわ」
レスリーが彼を振り返って返事をすると、またギュスターヴに向き直ってふわりと微笑んだ。
「じゃあ、行ってくるわね」
「ああ」
戸口へと向かうレスリーを短い言葉だけで見送るギュスターヴだったが、彼女が外の光に溶けたあと、ルージュを見やった。ルージュはその視線に気が付き、肩を竦めてみせた。
「そんなに怖い顔しなくても、ご心配なく」
鋭い目付きの店主にそれ以上何も言われないうちに、とルージュは鍛冶屋を後にした。
First Written : 2021/11/28