ケルマリ。結婚秒読み的なお話。
どちらも可愛いですよね。
「ソフィー様のお話ですか?」
ケルヴィンはマリーに聞き返した。
ギュスターヴに呼ばれて居室を訪れたところ、ギュスターヴはマリーと談笑しているところだった。邪魔をしては悪いと辞去しようとしたところを誘われ一緒に座ったはいいが、当のギュスターヴは用事があると言ってどこかへ行ったまま帰ってくる気配がない。明らかな意図に腹は立ちつつも、マリーと二人で話をする誘惑には逆らえず、こうして彼女としばらく取り留めもない話をしていたところだった。
「ええ、ご存知のように、私は母のことをほとんど知らないので」
鈴を転がすような、耳に心地よく響く声。思わず聞き惚れてしまいそうになるのを自制しながらケルヴィンは首を傾げた。
「私などより、ギュスターヴに聞いた方がいいのではないですか?」
ええ、とマリーは頷く。
「もちろんお兄様からもうかがってはいるのですけれど、他の方から見た母に興味がありまして」
無理を言っているでしょうか、と控えめな言葉とともに軽く伏せられた睫毛にケルヴィンの視線が引き寄せられる。知れず高鳴る鼓動を誤魔化しつつ、彼は微笑んだ。
「いえ、そのようでしたら喜んで」
ほっとしたような様子で、マリーは彼を見つめる。その視線を感じながら、ケルヴィンは過去を懐かしむように話し出した。
「ソフィー様は、誰にも分け隔てなく優しく接してくださる方でした。まだ未熟な子供でしかなかった私の意見にも真摯に耳を傾けていただき、時には諌めてくださいました」
そこからヤーデでの出来事、ギュスターヴとのやりとりから見たソフィーの姿などをケルヴィンは語り、マリーはその言葉一つ一つに耳をすませ、身に染みこませるように頷き、相槌をうつ。真剣に聞き入る彼女の姿に嬉しくなり、ケルヴィンも声を弾ませて思いつく限りの話をしてみせた。
「ヤーデでソフィー様のことを悪く言う人には出会ったことがありません。花のように笑う方で……」
そこまで続けたところで、ケルヴィンはマリーの表情の陰りに気がついて慌てて口を閉ざした。
彼女の目尻に光るものを認めてケルヴィンはぎょっとする。
「マリー様⁈」
何か失礼があったかと焦る彼にマリーは首を横にふる。
「ケルヴィン様は何も……、私が悪いのです」
「ですが!」
思わず身を乗り出したもののどうすればいいかわからずケルヴィンはただ狼狽える。ハンカチで目元をおさえて、マリーはまた首をふった。ふわりと柔らかそうな髪が揺れる。
「呆れないで、聞いてくださいますか?」
「? ええ、なんなりとお申し付けください」
恥ずかしいのですが、とマリーは前置きをしたうえで、頬を薔薇色に染めて、その可憐な唇を小さく開いた。
「浅ましくも、母に嫉妬をしてしまいました」
ケルヴィンは絶句し、その言葉を頭に反芻したところで、ぼっと音をたてるように赤面した。
First Written : 2021/11/06