ギュスレスです。よくあるネタで一つ。
明確にはくっついてないけど、お互いの気持ちは察してる二人、という設定。
レスリーはギュスターヴの部屋に入ったところで、部屋の主が留守であることに首を傾げた。確かに帰ってくるところを見たはずだ。ハン・ノヴァの宮殿を抜け出して街へ行っていたのはわかっている。ケルヴィン達がまた探し回っていたから、帰ってきたら話をするように言うつもりだった。階段をのぼっていくギュスターヴの背中を遠目に見つけて追いかけてきたのに。
レスリーは部屋を見渡した。ソファーの上にお忍び用の外套が脱ぎ捨てられている。先程見にきたときにはなかったから帰ってきたのは確かだろう。では一体どこに消えたのか。探している人の気配を察してまた逃げてしまったのか。
彼女はため息をついて、ぐちゃぐちゃになった外套を持ち上げた。慌てて脱いだのか袖の部分が裏返っている。レスリーは袖口を探すために手を差し入れた。
(あ……)
着古したような上着に手を通すと、脱いだばかりの服には持ち主の色濃い残り香があった。決して強い香りではないのに、ふわりと包み込まれた心地になる。
頭の一部が痺れてぼんやりとした。袖を整え終えた外套をレスリーは自分の肩にかけてみた。予想通り肩幅が大きく、すぐずり落ちてしまう。胸元を引き寄せるようにして摘んでみると足首まで隠れて、くすりと笑みをこぼす。
(ギュス……)
彼との体格差に思いを馳せたところでレスリーは我に返った。
「私ったらなにをやっているんだろう……」
思わず口に出して、外套を近くの衣装掛けにかける。しわをしっかり伸ばして、さて探しにいくかと扉に顔を向けた瞬間、その扉が大きく開いた。
「ギュス!」
かっと頬が熱くなった。今入ってきたばかりの彼に見られたはずはないと自分に言い聞かせる。けれど言いようもない後ろめたさにレスリーの声は上ずった。
「レスリー?」
戸惑った様子のギュスターヴが彼女の名を呼ぶ。息を切らしているのかやや掠れた声だった。レスリーはぐっと息を飲み込んでゆっくり静かに吐く。
「帰ってきたのね。ケルヴィンやムートンさん達が探していたから、あとで顔を出しておいて」
「……うん」
彼が頷いたのを見てとって、レスリーはじゃあと部屋を出た。今にも駆け出しそうなのをじっとこらえて、自室に戻るまで誰にも会わないことを祈った。
* * *
「あれは狡いだろう……」
思わず口に出して、ギュスターヴはソファーにもたれかかった。
街から帰ってきてすぐレスリーの部屋へ向かった。彼女が好きそうな菓子を握りしめながらいけば、部屋には誰もいなかった。
とりあえず出直すかと自室に戻れば何者がいる気配がする。探しにきた誰かかと扉を小さく開けて覗きこめば——
嬉しそうに見えた、だなんて。その姿が可愛かっただなんて。
意味のない言葉を叫び出したい気持ちをどうにか抑えると、動揺のあまり渡せなかった土産が手許に残っていることに彼は気がついた。
First Written : 2025/01/12