ロマサガ3。
ハリードとシャールの話。銀の手に慣れていないシャールにハリードが発破をかける話。
お題をいただいて書いたものです。
サガステの設定もちょっと混じってます。
(ほんのりシャール×ミューズだったり、ハリード×ファティーマ姫だったり)
思いがけず夢の中で見つけた聖王遺物——銀の手。それがどういった仕組みの代物なのかはよくわからないが、利き腕の筋を切られ再起不能と言われた戦士が蘇るには十分なものであったらしい。
ハリードは炎の壁が己を包み込むのを感じながら、モンスターの懐に飛び込むために地を蹴る。三日月刀で弧を描くように薙ぎ払うと、怯んだモンスターを目掛けて火の玉が降り注ぐ。身体を空中でひねって後方に下がると、銀に輝く小手をその右手に嵌めたシャールが槍を繰り出した。
ハリードは口元に笑みを浮かべた。
シャールがいると戦いやすい。
他の仲間が頼りにならないわけではない。サラの弓はモンスターの急所を的確に狙いうつし、エレンが振り回す斧は大ぶりで隙が多いものの破壊力は抜群だ。トーマスの術でのフォローもそつがない。
しかし経験の差というのはそう簡単には埋まらないものだ。それが共に肩を並べて闘った経験となれば尚更。
ピドナのあばら家からアビスゲートを閉じる旅へと引っ張り出した甲斐があるというものだ。何の因果でそんな旅路になったのかと今でも思うが、戦力の増強は素直に喜ぶべきことだった。
しかし——
「腹ごなしに相手をしてくれよ」
夕食を終え、宿の部屋へと戻ろうとするシャールにハリードは声をかけた。シャールは突然何かと訝しむ表情を一瞬浮かべたもののその提案に頷いた。
宿を出てある程度開けた場所を見繕うと、シャールは槍を右手に持った。しかしハリードは首を横に振り、かわりに彼の前に片手剣を差し出す。
「長柄もいいが、今日はこっちだ」
「……わかった」
左手でそれを受け取り、使い慣れている槍を傍らに置いたシャールは剣を右手に握り直して、構えをとる。
「行くぞ」
言葉を発すると同時にハリードは地を蹴る。キンっと高い音をあげて刃と刃がぶつかり合う。体の重さをかけてふるうハリードの刀をシャールが弾ね返す。その反動さえ利用して身を翻したハリードの斬撃が鋭く襲う。シャールは猛攻を受け流すために剣をひとつ薙ぐと後方へと跳んだ。
「そんなものか、シャール!」
とったはずの距離を容赦なく詰めるハリードに気圧され、シャールがぐっと喉をならした。トルネードの名に恥じぬ速さに反応するだけで精一杯になる。
圧されて思わず朱鳥術を唱えそうになり、これは鍛錬でしかないと思い直す。
「シャール、ちょっと逃げ腰が過ぎないか」
「何を?!」
またキィンと高い音が鳴り響く。
「利き手が使えないというのは言い訳でしかなかったのか?」
斬撃の合間にハリードが目をすっと細めた。
「そんな状態で何を護るつもりだ!」
「!!」
ハリードの刃をシャールのものが弾く。シャールの瞳にギラりと光るものを見て、ハリードは内心笑みを浮かべた。彼が求めていたのはこの目だ。心優しいこの男が、戦いの場で見せる、他者を圧倒するような内なる炎。
打ち返す手応えが変わる。明らかにハリードの力に、速度に肉薄してくる。
切磋琢磨した日々の名残を感じることができる。
ハリードは笑った。
「すまない」
宿に戻る時、シャールはハリードの背に言った。けしかけたのはこちらだというのに、その殊勝な態度にハリードは苦笑する。
「いや、こちらこそ悪かった」
熱くなりすぎたな、と肩を叩くとお互い部屋に入る。
ハリードはひとつ息をつくと、暗くなった窓の外を見た。輝く星が砂の海を照らしている。
(一体何を護るつもりか、だなんて、どの口が言うのか)
ハリードはまた深く息を吐いてから、寝台に横になった。
First Written : 2023/08/14