RS世界での鍛冶屋工房の話。
あけびの看板がぶら下がる店の扉を開くと、誰もいないはずの室内に人がいてギュスターヴは目を見開いた。扉の上部にぶら下げた鈴のチリリンという音で、彼を待っていた人物が振り向き、その長く艶やかな髪がふわりと揺れた。
「……なんだ、レスリーか」
「なんだ、じゃないでしょう? どこに行ってたのよ」
胸の前で手を組んで、レスリーがじいっとギュスターヴを見つめる。形のいい眉が歪んで顰めっ面になっているのが勿体ない。
「ちょっと出かけてただけだろ」
「武器を鍛えてもらいに来たら店が開いていない、ってこぼしてる人をよく見るのだけど?」
「気のせいじゃないか?」
扉を閉めて、ギュスターヴは部屋の奥へと向かう。荷物をおろして、愛用の剣を壁にたてかけていると、背後でレスリーがため息をついた。
「もう、本当に真面目にやってるの?」
ギュスターヴを咎める言葉には心配の色が混じっていた。元より彼がひとつ所にじっとしている性分ではないのは、レスリーもよくわかっていた。
「やってるさ」
剣のかわりに槌を持ち上げてギュスターヴは答えた。品定めするようにそれを手の中でひっくり返しながら眺める。
「結構面白いんだ、いろんな武器を扱うから。さすがに銃は教えてもらいながらだけど」
レスリーは店の壁に飾られた武具を見た。剣や斧、様々な種類の武器の中に並ぶ金属の筒。片手で持てる小ぶりなそれに、同じく金属の球を入れて撃つと想像以上の威力をもった攻撃になる。
「私たちの世界にはないものね。リアムが使っているのを間近で見たけど、とても不思議」
「だろう? 見たことがないものがある世界なら探検してみたくなると思わないか?」
どうやら不在の言い訳らしい。レスリーはまた眉間に皺を寄せてギュスターヴの顔を見た。目線をあわせても悪びれることなく歯を見せて笑う彼に、レスリーは怒りや呆れを通り越してなんだか馬鹿らしくなってしまった。
「ほどほどにしてよね。あと、時間を決めて」
「うん、そうだな。考えておくよ」
楽しそうなギュスターヴの様子が見れるならいいのかな、とどこか甘くなってしまう自分を感じながら、レスリーは頬をゆるませた。
First Written : 2021/12/07