第二部第3話あたりのお話。鍛冶屋に集まる幼馴染。
扉についている鈴がチリンとなり、ギュスターヴはちらりと戸口を見た。入ってきた人物を認めるとまた目の前に視線を戻す。カウンター越しの客が武器を受け取って出口に向かうのと入れ替わるように、先程店に入ってきたフリンが彼の元に近づいてきた。扉が閉まるとまたチリンと鈴が鳴った。
「レスリー達が乗ったシップが帰ってきたみたいだよ」
槌の手入れをし始めたギュスターヴの眉がぴくりと動く。
「……そうか」
素っ気ない返事だったが、僅かに手の動きが鈍っていた。
レスリーが新人パイロットのリアムと共にシップに乗り、『扉』に向かったのは数日前。その間、ギュスターヴはどうにも落ち着かない様子だった。本人は隠しているつもりのようだが、長年彼を見ていたフリンの目は誤魔化せない。
チリンとまた鈴がなって、今度こそギュスターヴは戸口に顔を向け、また見知った顔を見て口を引き結んだ。
「なんだ、ケルヴィンか」
「なんだとはなんだ」
ケルヴィンは些かムッとした顔になったものの、いつもの事とすぐ気を取り直して部屋の中に足を踏み入れる。ヤーデの鍛冶屋のように日用品を扱っているわけではない為、客足はまばらであり、今も最後の客が帰ったところだった。暇を持て余したギュスターヴが不在にすることも多く、ケルヴィンが様子を見に訪れて苦言を呈すことも日常茶飯事である。
「遊びに来ただけなら帰れよ」
「そんなに苛立つな」
刺々しい言葉に、ケルヴィンはやれやれと肩を竦め、軽く咳払いをした。
「今さっきリアム達とすれ違ったぞ」
「……」
ギュスターヴはまた顔を顰めた。二人がわざわざ彼に知らせに来る意図が透けて見えて、面白くない。ケルヴィンはそれには気づかず、言葉を続けた。
「何でも、不測の事態があってクラヴィス本部に報告があるとか」
適当に流すつもりだったギュスターヴが、えっ、と微かに声を漏らし、そしてフリンをじろりと睨めつけた。
「おい、フリン。聞いてないぞ」
矛先を向けられ、フリンが慌てて首を横に振った。
「ボクも知らないよー。え、何があったの?」
「そこまでは聞いてないが……」
「なんだよ、それ」
口々に言い合う彼らから離れたところで、チリンという音が控えめに響いた。風が部屋に流れこむ気配に、三人は揃って戸口を振り返る。
「レスリー!」
フリンが真っ先に声をあげた。
一斉に視線を浴びたレスリーがたじろぐ。そしてふふっと笑みをこぼした。
「みんな揃って、相変わらずね」
レスリーの変わらない様子に、三人はほっと胸を撫で下ろした。
「よかったぁ」
「無事のようだな」
フリンが嬉しそうに笑い、ケルヴィンも頷いた。
「え、どうしたの?」
「不測の事態があったって聞いて心配してたんだよ」
「あぁ、それね。うん、ちょっといつもと違うことがあったけど、誰も怪我はしていないわ」
そうか、とケルヴィンは息を吐き、横のギュスターヴを見た。彼はレスリーに視線を向けたまま黙り込んでいた。
「ほら、お前も何か言ったらどうだ」
「ギュス様すごく心配してたもんね」
「何言ってんだ、そんなわけ」
話を急に振られて否定するギュスターヴだったが、レスリーが一歩近づいた為、ぐっと言葉に詰まった。じっと見上げる碧い瞳に知らず頬が熱くなる。
「ただいま」
レスリーが彼の目を見据えたまま、口を開いた。
「……おかえり」
視線は外されたが、ぶっきらぼうながらもしっかり聞こえた返事に、レスリーは嬉しそうに笑った。
First Written : 2022/04/02