2023年5月のロマ佐賀コラボでヨハンのスタイルが実装されたのでその話です。
毒の影響がない世界では自由に楽しんでほしいですね。
「休暇……ですか?」
それはつまり——
色を失っていくヨハンの顔を見てギュスターヴは失笑して言葉を継ぎ足した
「誤解するな。文字通りの休暇、休みだ。もちろん、その後でお前が任を解いて欲しいというのならばそれでも構わない」
「そのようなことは決して!」
縋り付くかのようなヨハンに彼の主はまた笑った。その顔は困ったようで、半面嬉しそうでもある。
「せっかくの異世界だ。毒の心配も無い。ならばお前はそれを楽しむべきだ」
「休暇と言われても、私には行く宛てがありません」
「そう言うと思って、ほらこれ」
ギュスターヴのすぐそばに控えていたヴァンアーブルがヨハンの手に複数の冊子を押し付けるように渡す。色とりどりの空飛ぶ球体が描かれたもの、林の中に湧き出る泉が描かれたものなど大小様々の本。
「あと、列車のチケットもね」
本の山の上にぴらっと一枚のせたところで、ヴァンはさらに一歩近づきヨハンの耳に口を寄せる。
「良いとこ見つけたら教えてよね。ほら、ギュスターヴ様を案内する為の下見とでも思って」
ただし、とヴァンは指先をヨハンの鼻に突きつけるようにして口角をあげた。
「ヨハンも楽しかったところじゃないと、駄目だからね。いいね? ヨハンも楽しむんだよ」
後ろ髪を引かれるように何度も振り返ろうとするヨハンの背中を押してなんとか見送り、ヴァンアーブルはやれやれと一息ついた。一部始終を眺めていたギュスターヴは、首を傾げながら歳若い従者にたずねる。
「お前も一緒に行けばよかったんじゃないのか?」
「いいんですよ。僕がついて行ったらなんだかんだで自分のこと後回しにするんだし」
それに、とヴァンははにかんだ。
「時間ならいくらでもある。——それだけで十分なんです」
サソリの毒。ヨハンの命を蝕みつづける毒を中和せんと、ヴァンが必死に研究を続けていたことをギュスターヴは思い返す。シルマール師の協力もあおぎ、あの手この手を尽くしたものの、できたのはせいぜい痛みを軽減するだけで根本的な解決には至らなかった。ヴァンが幾度となく悔し涙を浮かべていたことも知っている。
(よかったな)
ギュスターヴは小柄な少年の髪を乱暴にわしゃわしゃと撫でた。
「ちょっと、子供扱いしないでくださいよ」
「お前達はまだまだ若い」
そう、時間はいくらでもあるのだ。
従者たちの明るい未来を思い、ギュスターヴはまた笑った。