レッドとルージュ。
ロマサガRSで2023年7月のサガフロ発売記念に実装された二人から生まれた話。
『ブラッククロスをぶっつぶす!』
そう誓ったとはいえ、現実はテレビドラマみたいにとんとん拍子には進まないものだ。
キグナスに乗ってた頃は奴らの尻尾が掴めそうな瞬間にかぎってかかる呼び出しに歯噛みしたものだけど、自分の足で手がかり探しとなると途端に何も見えなくなる。連日の聞き込みでは大した収穫はなく、途方に暮れていると言ってもいい。
となれば、逆にこう考えてみる。
——事件あるところにブラッククロスあり。
街で起こる事件を追えば奴らの根城も見つかるんじゃないかという作戦だ。
正義の味方の本業みたいな? それならばアルカールも文句ないだろうし、一石二鳥も狙えるかもしれない。
夜の街、クーロン。もう犯罪の巣窟と言ってもいい街だ。警察も仕事をすることを諦めたのか、ほんの少し路地を曲がれば、怪しげな薬や盗品の売り買いが山ほど行われている。
さて、どこかで事件が起きていないか。
悲鳴がきこえる。そこに颯爽と駆けつける。
まさにスーパーヒーロー、ってもんだろう?
と、早速誰かが助けを求めている。泥棒だろうか? 怪しい男が胸に鞄のようなものを抱えて、行き交う人々を押しのけながら小路をすごい速度で走っている。
あの先は、裏路地か。まずいな。下水道に入られたら見失ってしまう。
ここは先回りをするか、と思っていたら——
暗闇からゆらりと人が躍り出た。走ってくる男の前に影が立ちはだかる。大柄な犯人がぶつかったらひとたまりもないだろう、細身の人物だった。その男(いや、女かもしれない?)がゆっくりと右手を頭上に掲げる。
その瞬間、闇がほとばしり、悲鳴がきこえた。
悲鳴をあげたのは意外にも犯人の男の方だった。立ち塞がった人物が放った術が身体を焼き、泥棒は奪ったものを放り出して地べたでのたうち回っている。
これはヒーローの出番は無いな。
大した術士がいるもんだ、とその時はその程度にしか思わなかったんだけと——
まさかこうやってその人物と再会するとは。
ルージュ、と彼は名乗った。
それで思い出す。彼によく似た男にキグナスで会ったことを。名前が気に食わんとか言われたんだっけ。
「……なるほどねぇ」
「どうかしたかい?」
「いや、こっちの話」
思わず声が漏れていたらしい。
ルージュはパッと見は所謂「優男」という感じだ。綺麗な顔をしていて、物腰がやわらかい。でも俺はあの時の凄腕の術士を知っている。
ルージュは術の資質を求めて旅をしている途中だという。術なんて俺には縁もなさそうだし、何より他人と一緒では気軽に変身もできない。旅に誘われれば、答えは明らかにノーだ。
そう頭ではわかっていたのに何故か、首を縦にふっていたのだからおかしな話だ。
ルージュは最初に出会った時の印象通り、すごい奴だった。接近戦を得意とする俺の背中を見事にカバーするどころか、雑魚なんかは軽く一掃してくれる。俺の出る幕が無いくらい、頼りになる相棒だ。
でも、俺がブラッククロスに復讐を誓ったように、おそらくルージュにも人には言えない真の目的がある。
いつかは別れる旅路だろう。それはわかった上で、そんな関係も悪くないかなと最近では思っている。
赤い名前を持つもの同士、しばらく仲良くやろうぜ。
First Written : 2023/07/20