FF9。スタベア。
一体いつからだったのか。彼に初めて負けた時からか。不甲斐ない隊に歯噛みしていた頃からか。
私は彼の真の強さに気づいていなかったのだ。ただ唯唯諾諾と命令を遂行する私とは違い、彼は一歩外へと踏み出した。
不甲斐ないのは私の方だった。このままここに居続けることはできない。国を出よう、そう決心したはずなのに。
——自分は、もう二度とお前を失いたくないのだ!
心が揺れた勢いのまま、脚は駆けていた。 受け止めるべく、彼が両腕を広げる。
その胸に飛び込もうとして……私は立ち止まった。拍子抜けする彼に笑みが零れる。
ゆっくりと近づくとスタイナーの胸に手を添え、軽く叩いた。カンっと高い音が響く。
「その鎧では、痛そうです」
「あー、そうであるな」
合点が行き、彼は気恥しそうに頬をかいた。
走り回る度にガシャガシャと鳴る鎧兜はプルート隊隊長のトレードマークでもある。その音を聞く度に心が浮き立ち、己を律するのに苦労するようになったのはいつからだったか。
「そうか……ベアトリクス、しばし、待ってくれ」
彼はそう言って、一歩後ろに下がるとガチャガチャと手元をいじり出す。彼は籠手と手袋を外すと露になった右手を前に出した。ガシャンと音をたてて落ちる篭手を目で追っていると、彼が私の右手を取る。
思わずぷっと、吹き出してしまった。これでは——
「あぁ! 間違えたのである!」
彼は慌てて手を離し、今度は左手をとった。手を引かれ、横に並ぶと彼を見上げる形になる。兜の合間から見える彼の頬は赤く染まっていた。
「スタイナー……少し待ってください」
手を離し、自分の左手首を触る。足元に落ちたスタイナーのものと、自分の篭手を右手に抱え、左手を彼の右手に重ねた。肌と肌が触れ合い、直に温もりを感じる。指を絡めると彼がぎゅっと握り返してきた。
「これで、大丈夫です」
顔を見上げて笑ったら、彼もまた照れくさそうに笑みを浮かべた。胸が熱くなった。
凝り固まったものを脱ぎ捨て、こうしてまた彼の隣に居続けることも、きっと悪くないのでしょう。
First Written : 2022/01/12