FF4。リディ→セシなエジリディ。
召喚の術を覚え、身体が成長していくにつれ、白魔法は忘れてしまった。幼い頃に無自覚に芽生えてしまっていた想いも、一緒に置き去りに出来ていればよかったのかな。
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セシルの剣が深く魔物を切り裂く。ゆっくりと魔物の体が傾いで倒れる。ぴくりとも動かなくなったところで、リディアは詠唱を中断して息を吐いた。
剣を払ったセシルが脇腹をおさえて膝をついた。怪我をしているようだった。
「大丈夫、セ」
「セシル!」
リディアが言葉を発しきる前に、ローザがセシルに駆け寄る。彼のそばにひざまづくと、ケアルラの詠唱を始めた。
「ありがとう、ローザ」
「あまり無理しないで」
心配するローザにセシルが微笑みかける。リディアは伸ばしかけた手をぎゅっと自分の胸もとに手繰り寄せた。
そうだ、回復呪文はもう使えないのだ。セシルにはローザがいる。そうでなくても、自分が出る幕などなかった。
色付いた淡い想いは気づいた頃には既に叶うものでもなく、ただ胸に秘めておくしかできない。別にどうこうなろうと思っていた訳じゃない。セシルもローザもどちらも大好きだし、二人はお似合いなのだ。だからこれは単に憧れという感情だと、リディアは自分に言い聞かせてきた。
「リディア」
急に声を掛けられてリディアは振り返った。エッジが彼女のすぐ側に立っていて驚く。いつからそこにいたのだろうか。飲み込んだ言葉が聞こえていたならとても恥ずかしい。リディアは跳ねてしまった心を落ち着け、何も無かったかのように顔を取り繕った。エッジは気づいているのかいないのか、なぁ、と続ける。
「ポーションくれよ」
顔の前に差し出された手のひらを見て、リディアは目をぱちくりと瞬いた。
「なんで?」
「いや、なんでって、俺も怪我したんだけど?」
もう一度考えてみたが、やはり彼が言っていることがよくわからない。ポーションぐらい自分でも持ってるはずだし、何よりも——
「ローザに回復してもらえばいいじゃない」
「今言える雰囲気だと思うか? それにさ、リディアのポーションってなんか効く気がするんだよな」
「意味わかんない」
ポーションなんて、誰から貰っても効果なんて変わるはずがない。全く意味不明だ、とリディアは思った。それと同時に、エッジが彼女に気をつかっているのだということもなんとなくわかった。本当に意味不明だし、余計なお世話なのだけれど。
「大切なのは気持ちだろ?」
「……エッジにあげるポーションに気持ちなんてこもってないよ?」
「きっびしーな」
大袈裟に顔をしかめてエッジがハハッと笑った。腹がたちそうなものなのに、トゲトゲした気持ちがなんだか緩んでしまう気がするのが不思議だ。
リディアは腰につけていた袋から水色の透明な液体が入った瓶を取り出し、エッジの手のひらにのせた。
「はい、どうぞ」
「って本当にポーションかよ。そこはせめてハイポーションだろ?」
「ポーションだって効くんでしょ?」
「うっ」
言葉に詰まるエッジを見ていると自然と唇に笑みが浮かんでくる。リディアの中にむくむくと子供のような悪戯心が芽生えてきた。
「はいはい、じゃあポーション十個ね」
「これ全部飲めってか?」
「嫌ならいいですよー」
うへぇ、と言いながらもエッジが瓶をあけてひとつに口をつけた。ごくりと嚥下する横顔を見て、リディアはこそばゆい気持ちになる。
(ありがと、エッジ)
口に出すと調子にのるのがわかっているので、リディアは心の中でだけ彼に感謝することにした。
*****
白魔法を失って、召喚の術を身につけた。黒魔法も前よりずっと強力になった。大丈夫、違った形でもちゃんと役に立てている。
もしかしたらこの気持ちも、身体が成長するにつれ、どこか変わっていってるのかもしれない。
——もしかしたら、ね。
First Written : 2022/07/11