その背中を - 1/3

個人的妄想のマフレズ×エリカの始まり的な話。
視点変えの三連作です。

『その背中を』:クラウザー
『身の程知らず』:マフレズ
『弱き者』:エリカ


 

その背中を

 黒髪の隻眼の男は何者かが近づいてくる気配を感じて動きを止めた。彼は持っていた槍をひとなぎすると、それを己の肩に乗せた。
「マフレズか」
「鍛錬中か、クラウザー?」
「見ての通りだ」
 いかにも女性受けが良さそうな精悍な顔つきのこの男は、彼の幼なじみだった。もっとも彼らの関係は友というよりは好敵手のそれである。現に今は将軍の地位にどちらがさし迫れるか競い合っているところだ。少なくともクラウザーにマフレズと馴れ合うつもりは一切なかった。
「お前は王女の剣術指南役にでもなったのか?」
 城の方から歩いてきたマフレズにクラウザーは言う。王室の守護役であるレブラントから声が掛かったという噂が兵達の間で囁かれていた。
「そういうわけではない。たまに稽古に付き合っているだけだ」
「まぁどうでもいいけどよ」
 クラウザーは鼻で笑う。マフレズはどこか浮かない顔をしていた。王女エリカとのやりとりで何かあったのかもしれない。
 だが、クラウザーは助け船を出してやるほどお人好しではない。寧ろマフレズが他のことに心とらわれることは好都合ともいえた。
 力を持つことは彼にとって生きることと等しかった。例え長年寝食を共にした仲であっても、足踏みをするようならそれを容赦なく越えて行くのみだ。

 ――見てろよ、マフレズ。貴様が王女と遊んでいる間に、俺は先に行くぞ。

 遠くに去っていく背中を眺め、クラウザーは愛用の得物を握りこみ、振り下ろした。