初日の出をテーマに。
「ギュス様〜、こんなことしてたら怒られちゃうよ〜。鍛冶屋の屋根の上でも充分見えるんじゃないの?」
フリンは階段をのぼりながら、前をずんずん進んでいくギュスターヴの背に投げかけた。ギュスターヴはフリンを振り向くことも無く、歩みも止めない。
「大丈夫だろ。見つかっても、別に悪いことしてるわけじゃないんだ。それにこういうものは特等席で見るのに限るだろ」
(鍵がかかってるところを飛び越えてきた時点で悪いことのような……)
フリンはその反論を心の中に留めておくことにした。言っても無駄だとわかっていたからだ。
「見ろよ、フリン!」
ひと足早く一番上にたどり着いたギュスターヴが腕を大きくひろげた。彼の上着が風を受けて膨らんではためく。
フリンは這い出すように後に続く。そこは、バンガードの城壁の上だった。まだあたりは暗く、気をつけていなければ小石にでも躓きそうだった。日光の暖かさもない冬の夜にフリンはぶるりと震える。
「寒いよ、ギュス様」
「それくらい我慢しろよ。嫌なら戻ってもいいんだぞ」
ギュスターヴは構わず街の外を眺めている。フリンはもう一度身震いをした。コートこそ羽織ってきたが、もう少し厚着をしてこればよかったと後悔する。
「全く、お前達と来たら……」
「本当にね」
「ケルヴィン! レスリーも!」
階段をのぼってきた二人にフリンは驚きの声をあげた。それに対して、ギュスターヴは彼らをチラリと見て口角をあげただけだった。まるで予想していたかのような彼の反応に、ケルヴィンは眉を顰める。
「クラヴィスの方には一言断っておいたわよ」
ついでに防寒具も、とレスリーはフリンにマフラーを手渡す。
「ありがとう、レスリー」
フリンが嬉しそうに笑い、マフラーをぐるぐると首に巻いた。冷えた首筋が夜風を避けられてひと心地つく。
「はい、ギュスも」
レスリーが先程からずっと一点を見つめたままのギュスターヴにもマフラーをかけてあげる。彼の視線の先を見やると薄らと空が明るくなってきていた。
しばらく四人は無言になり、同じ方角を見つめる。次第に空が漆黒から薄青に、水平線が赤味を帯び、茜色が広がっていく。
「あっ……」
最初に声をあげたのは誰だったか。白い光が漏れ出でる。その眩しさに皆が目を細めた。
「綺麗……」
レスリーが思わず口にした。
「こういう時、なんて言うんだろうね」
フリンがポツリという。
「あけましておめでとう、だったか?」
ギュスターヴが首を傾げる。
「そうだな。今年もよろしく頼む」
ケルヴィンが頷く。
四人はお互いの顔を見て笑いあった後、今年初めての陽の光を見つめた。
First Written : 2022/01/01