男のつとめ

リッチのお話。
あの空に虹を、の前日譚っぽく。


 

 ──いつものやつで。
 久しぶりだって? 確かにそうだな。ノースゲートまで行ったはいいが、船賃払ったら持ち金が底をついちまった。向こうで稼いできてこうやって戻ってきたところだ。まぁ、ディアナは残って欲しそうだったが……。ん? あぁ、向こうでちょっとな。相変わらずとはひと聞きが悪い。女の子が困ってたから声をかけただけだ。男としては当然だろう? まぁ、色々あったことは否定しない。大人の男と女だからな。
 でもディガーならいろんなとこへ行ってこそだろ? そもそも同じところにじっとしているのは性に合わないんだ。それにしてはここに良く来るって? そりゃ親父さんのとこの酒がうまいからだよ。それにディガーといえば酒場だ。女の子も可愛いしね。
 ──親父が聞いたらいい顔はしないだろうな。今でもお袋と仲良いしな。そりゃあ、ガキの頃は親父に憧れたものさ。立派なディガーになるんだ、とか言っちゃってさ。でも俺は親父とは違うんだ。あいにくこんな性格だ、仕方ないだろ。
 ところで、さっきからあの端で飲んでる子、どうしたんだ? 随分と浮かない顔をしているじゃないか。悪い癖だって? だから、言っただろう、困ってる女の子がいたら助けてやらなきゃって。じゃあ、行ってくるよ。

「やぁ。俺はリッチ。あんまり金持ちじゃないんだけどね」


First Written : 2022/01/03