天下晴れずとも
熱闘コロシアムの様子見がてら受付をすませてきたレスリーは、ビーチの中程で歩を止めて辺りを見渡した。少し先のパラソルの下でケルヴィンとフリンを見つける。遠目から見てもケルヴィンは具合が悪そうであり、フリンが横から水を差し出しているようだった。ギュスターヴは——とさらに首をめぐらすと、彼は見知らぬ女性二、三人となにやら話をしているようだった。
彼が浮かべる表情にレスリーは胸にちくりと痛みを感じたが、それもいつものことと思い直す。ギュスターヴが楽しそうなら、そしてそれが少しでも息抜きになるのであれば、と自分を宥める。
「君、もしかしてひとり?」
急に声をかけられてレスリーは驚いて振り返った。二人組の男性が目の前にいた。コロシアム目当てではなく、リゾートに遊びに来たのだと服装から察する。
「何か困ってるの? よかったら一緒に遊ばない?」
彼女が答えずにいるとそれを肯定ととらえたのか、もう一人の方が続けた。
こういう手合いは情報収集で来た時もいた。その時はライザが一緒にいた。不躾に体に触れてくるような連中は容赦なく投げ飛ばし、そうでない者達に対しては適当にかわしながら逆に情報を引き出す、という彼女の鮮やかな手並みに感心したものだ。こういう時、ライザならどう返していただろう。
記憶をたどって言葉を探していると、ふと右腕に何かが触れてレスリーはびくりと肩を震わせた。
「この人達は誰だい? レスリーの知り合い?」
いつの間にか傍らに立っていたギュスターヴがレスリーの肩を軽く抱き寄せるようにしてそうたずねた。にこやかに口角はあがっているものの、彼の口調には不機嫌の色が混ざる。
「あ、いや、彼女が何か困っているかと声をかけただけで……」
「そうそう、でもひとりじゃないなら大丈夫そうですね」
見るからに体格の良いギュスターヴを前に、微かに青ざめた二人が首を横にふった。ではこれで、と口にしてそそくさと退散していくのを見届けた後、ギュスターヴがふっと手の力をゆるめる。レスリーは彼の指が触れていた箇所を無意識になぞると、ギュスターヴの顔を見上げた。
「……ありがとう、ギュス。助かったわ」
ギュスターヴはじっと彼女を見返した。
(怒っている……?)
その目に浮かぶ感情をレスリーが読み取ることができる前に、彼はふいと顔を背けた。
「ここにはああいう連中がそこかしこにいるんだから、あまりひとりでどこか行くなよ」
「……うん、そうね」
「わかったなら行くぞ」
ほら、と言ってギュスターヴが手を差し出す。依然として目線は合わせてはくれない。けれども。
——少し、自惚れてしまっても、いいのかしら。
ギュスターヴの耳が赤くなっているのは暑さだけのせいではないのだと。そういう風に考えてしまってはいけないだろうか。
レスリーはゆるんでしまいそうになる顔を見られないように目を伏せると、差し伸べられた手に自身の指をそっと絡ませた。