帰るまでが旅

2022年ロマ佐賀スタイルのギュス様実装。
イベント内にあったパネルイラストからの妄想。
(ロマ佐賀列車に乗っている、幼馴染4人+ポルカリズジョー+カタリナモニカ)


 

 ガタンゴトンと規則的に響く音が耳に心地よく響く。まるで大きな揺籃に運ばれているようだ。

 ギュスターヴが窓際の席へと駆けて場所をとる。フリンがその横に滑り込み、レスリーがその向かい側に座った。
 通路を挟んで反対側の席へ足を向けると、ギュスターヴが不満そうに鼻を鳴らした。
「こっちに座れよ」
「こんなに空いてるんだ。どちらでもよいだろう」
 そう応えると、ギュスターヴが「協調性がない」だのとぶつくさ続けたが、それは聞こえなかったこととする。
 席に着いたところで、窓から外を眺める。ゆっくりと動き出した列車は徐々に速さを増していく。疾走していく景色に、高揚を感じる。このまま何処までも走り続けられそうな、そんな気さえしてくる。
 一日中街を観て回った。足湯で幾分和らいだとはいえ、歩き通しの脚はじんわりと熱を持っていた。だらしなく見えない程度に、足を伸ばし、身体をゆるめる。
 自分を含めた四人はみな、同じ羽織に袖を通していた。赤のやわらかい布地に紅葉の絵が描かれている。縁には金糸の模様が連なる。最初は同じ衣に身を包むことに気恥しさを感じたが、今となってはむず痒い嬉しさが込み上げてくる。あいつが聞けば、からかってくることはわかっているので口には出すまいが。
「内燃機関で動いてるんだ。術じゃなくてもこんなに大きい物を動かせるんだ。すごいよな」
 ギュスターヴが大きく手をひろげてはしゃぐ。座席に片膝をついて、半ば立っているような格好だ。
「声が大きい。あと、間違えても鳴らすなよ?」
「わかってるって」
 ギュスターヴの手には、とある工房での絵付体験で得たお土産品が握られている。いたく気に入ったのか、道中も幾度となく取り出しては得意げに見せびらかしていた。鳥の形を象ったその人形は、尾羽のところが吹き口になった土笛でもある。
 疎らとはいえ、私達の他にも乗客はいた。少し離れたところには親子と思われる三人組がいるし、その向かいの席には淑やかに談笑してる女性達もいる。
 彼女達も観光をしていたのだろうか。親子の子供の方はどうやら船をこいでるようだった。うとうとしている彼女の頭を女性の方が優しく撫でている。
 夕日が窓から差し込み、車内一面を茜色に染め上げる。光を背負ったギュスターヴの顔が興奮で上気しているのか、夕焼けのせいなのかもはや判別がつかない。時折大袈裟な仕草で語るギュスターヴの隣でフリンが相槌をうち、レスリーが頷いて微笑む。
 ——ずっとこのような日々が続くといい。
 それは、誰がいつ発した言葉だったろうか。記憶は曖昧に混濁している。心地好い揺れが、思考を鈍らせ、甘やかな夢想へと引き込んでいく。
 
 ——ケルヴィン、眠ったの?
 ——全く、帰るまでが旅だというだろう?
 ——そういうあなただって随分眠たそうよ。
 
 欠伸をかみころす音が近くて遠くに聞こえる。寝てなどいない、と言い返す気力もなく、快い揺れに身を任せた。

 


First Written : 2022/10/08