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渡された切符で列車に乗ったヨハンは手近なボックス席に座った。車内は空いていてゆっくりと景色が楽しめそうだ。気を張らなくていいというのはどうにも奇妙だったし、「楽しむ」ということも今ひとつわからない。染み付いた習慣はなかなか抜けないものだが、それでも何の収穫も無しでは帰った時にきっと怒られるだろう。
さて、どこへ向かおうか。行く先に悩んだヨハンは、ふと思い出して鞄を開いた。身の回りのものを軽く詰め込んだ鞄は主にヴァンから渡された冊子で埋まっている。そのうちの一つを取りだして開いてみる。
軽くめくっただけでもあちこちのページに見知った文字でメモが書かれている。見どころや食事の勧めを綴った文字を眺めていくと、最後の物産紹介のページには「お土産も必須!」と一際大きな文字で書いてある。
これは案外大変な任務なのかもしれない、とヨハンは思わず息を漏らして笑った。
First Written : 2023/05/10