* * *
「レスリー……!」
驚きに声を上げたつもりが、実際に自分の口から漏れたのは思ったよりもずっとか細く掠《かす》れた声だった。
もう二度と会えないと思っていた。言いたいことがあったはずだ。言わなければいけないことが、沢山あったはずだ。
それなのに何一つとして声にはならず、名前を呼んだだけで言葉につまってしまう。
彼女は戸惑った顔を見せている。それもそのはずだ。俺が最後にあったレスリーと目の前の彼女の姿はあまりにも違う。彼女の瞳に映る俺もまた同じだろう。
途端に不安にかられる。こんな姿で会わない方がよかったのかもしれない。彼女が知っているかつての俺はどんな奴だったろう。経た歳月で怨嗟や死の匂いがこびりついて離れなくなったのは自覚している。怯えさせるぐらいなら、そっと離れた方がいい。
「ギュスターヴ? どうしたの?」
それでもその場から動けない俺に彼女が一歩近づく。まっすぐと向き合った顔からは戸惑いが消えて、ただ気遣う気配だけがある。
彼女が俺に手を伸ばす。そろりと頬を撫でる感触に思わず息をのむ。
そんな彼女は俺がよく知っている彼女で。
でも俺は彼女が知らない俺で。
詰まったものを流すように。胸を揺さぶる想いに蓋をするように。ゆっくりと息を吐いた。
「——君が随分と若くて驚いただけだ」
「何よそれ」
(ただいま)
彼女の手に自分のものを重ねて、言いたかった言葉のひとつを知られないように口にした。今はただこの温もりを再び感じられただけで十分なのだと、そう思えた。
First Written : 2023/08/28