線香花火

夏のギュスレス。


 

 小さい火の玉がぽとりと地面に落ちた。あっ、と思わず声が溢れる。
 レスリーは傍らに立つ人を睨めつけた。
「ちょっと、自分のが消えたからってつつかないでよ」
 ギュスターヴは悪びれもせずニヤニヤしながら、細長い紐のようなものを彼女に差し出した。反対の手には同じものがもう一本。
「もう一回勝負だ」
 親指と人差し指で摘んで垂らし、額と膝を突き合わせるようにして、せぇので火を灯す。
 小さな紅い玉から稲妻のような光が伸びて枝分かれする。それはほんの一瞬のことで、また新たな閃光が走ったかと思えば無数に弾ける。耳をすませば、パチパチと小さく爆ぜる音が聞こえる。
 火花を真剣に見つめる彼を盗み見る。落ちるな落ちるなと息を止めてる頬がほの明るく照らされている。
 その顔を間近でずっと見ていたくて、落ちるな落ちるな、と心の中で念じた。


First Written : 2021/08/11