1247年「上陸」のケルヴィンとギュスターヴの話。
東大陸ロードレスランドの海岸。
ケルヴィンは打ち寄せる波の音を聞きながら、ネーベルスタン将軍の言葉を反芻していた。
──それにはケルヴィン殿、あなたの存在は重要なのですよ。
(大変だ、本当に。)
なかなかの重役を任されたものだ、とケルヴィンは思った。他にも適任がいるのではないかと考えないでもない。
ギュスターヴと出会ってから十五年近いが、未だに彼にはどこか掴めないところがある。それは一つに生い立ちの違いだ、と先程将軍からも指摘された。自分の血筋に対する誇り。それゆえか、ケルヴィンは何かと正論を説きすぎる節があるらしい。
(確かに言い方がまずかったかもしれないな)
自虐的になるギュスターヴを見るのは歯がゆかった。確かに彼は術不能者であったが、それを物ともせぬ力を手に入れ、自分で道を切り開いているではないか。何故そこで気弱になるのかケルヴィンには理解ができなかった。
これから戦いが始まるというのに、士気も何もあったもんじゃないと彼を窘めたが、少しきつかっただろうか。
(話をするか)
段取りは将軍と決めたが最終的に詰めないといけないこともあることだし、とケルヴィンはギュスターヴを探しにいくことにした。
ギュスターヴは少し離れたところで木によりかかり足を投げ出して座っていた。その姿には懐かしい既視感があったが、無骨な鋼鉄の鎧を全身にまとっているのがややちぐはくともいえた。
「ギュスターヴ」
「……終わったのか」
「ああ、確認したいことがいくつかあるから来てくれ」
「うん……」
返事とは裏腹にギュスターヴは動かない。頭上の葉がさらさらと彼の頬に影を落とす。
「ギュスターヴとギュスターヴの戦争か。まるで本物と偽物の戦いだ」
ギュスターヴが吐き捨てるようにこぼした言葉にケルヴィンは眉をひそめた。ギュスターヴの瞳は暗い色をたたえている。明るい日差しの中なのに、そこだけが暗闇のような……まるで寄る辺のない迷子のように見えて、ケルヴィンは二三度瞬きを繰り返す。
(ギュスターヴの、影)
アニマがないと蔑まれ、彼自身も自分を呪っているがゆえ、放っておいたらどこまでも堕ちていってしまう。深く深く……
──それならば、その闇から引っ張りだしてやるまでだ。
「くだらないことを言うんだな。それはどちらが偽物の話だ?
……少なくとも私にとってはお前が本物だがな」
「ケルヴィン?」
「私はお前しか知らんからな」
ケルヴィンはギュスターヴの前に手を差し出した。ギュスターヴは半ば反射的にその手を取り、ケルヴィンは力をこめて彼を立たせる。やや呆気にとられた様子のギュスターヴの胸をケルヴィンは軽く拳で叩いた。
「お前の後ろには沢山の兵士がいる。しかし、気にすることはない。彼らは彼らの意志でお前についてきてるだけだ。
突っ走るのがお前の特技であろう。どこまでも進んでみろ……後始末はなんとかしてやる」
いつだってそうしてきただろ、ケルヴィンは少し尊大に笑って見せた。ギュスターヴはぎこちなく笑みを返して……その後ふきだした。
「っ、笑うなよ」
「いや、すまんすまん」
くくくと笑い出すギュスターヴにケルヴィンは顔を赤くするのだった。
「ケルヴィン、将軍、後は頼む。」
──ああ、任せてくれ。
行けるとこまで行ってみろ。
First Written : 2021/04/28