気づいてしまった

ヤーデ時代の4人。ギュスレスというか、レスリー→ギュスターヴのお話。


 

 暑い日々が続いてた。日向にしばらく出ていると肌がジリジリと焼けるような心地がする。少しでも涼しいところへ、と彼らが川辺に来たのも無理のない話だった。
 川のせせらぎを聞きながら木陰でピクニックを。初めはそんな計画でしかなかったが、ふわっと吹いた風で彼女の帽子が飛ばされたことから、それは始まった。
 「おい、ギュスターヴ、何をするつもりだ」
 「何って。取りに行くんだよ」
 ケルヴィンの問いにギュスターヴはさも当然のように返した。飛ばされた帽子は運悪く川の中ほどにある岩に引っかかっていた。
 「そういうことを言ってるのではない。何故服を脱ごうとしている」
 とうに靴と靴下は脱ぎ、ズボンの裾も膝上まで捲っている。浅い川なのでそれで十分のはずだった。なのに、ギュスターヴはシャツのボタンまで外し始めたのだ。
 「人前で肌を晒すな。ましてや女性の前だぞ」
 「別にいいだろ」
 うるさそうに答えるがギュスターヴは既に袖から片腕を抜いている。
 「ねぇ、取りに行かなくても大丈夫だから」
 帽子の持ち主であるレスリーは彼を直視しないように顔を背けながらも、申し訳なさそうに言った。しかしギュスターヴには聞こえていないようである。
 彼はシャツを脱ぎすて上半身裸になると、川の中にザブザブと入っていく。数歩先に進んだところでおもむろにしゃがみ両手のひらに水をすくい上げ、それを頭から浴びた。
 「あ〜、気持ちいい!」
 ケルヴィンは目眩がしたかのように額に手をあてる。貴族としてあるまじき行為にほとほと呆れ返るが、ギュスターヴに関して言えば今更である。
 バシャバシャと派手な水音とともにギュスターヴが戻ってくる。
 「はい、レスリー」
 「あ、ありがとう」
 帽子を肩越しに手渡されて、レスリーは思わずギュスターヴを仰ぎ見た。すぐ間近に彼の顔があり、濡れた髪から雫がぽたぽたと光を浴びて輝き落ちた。
 刹那の間。
 「あ、私、何か拭くものを持ってくるわね」
 レスリーはすぐに顔を背けた。返事を待たず、足早に屋敷に向かって歩き出す。彼女の背後でまた声が聞こえた。
 「おい、フリンも入れよ!」
 「こら、水をかけるな!」
 「ケルヴィンも足だけ入ったら? 冷たくて気持ちいいよー」
 水が跳ねる音と、嫌そうなケルヴィンの声、フリンとギュスターヴの笑い声が混ざる。

 レスリーは振り返るまいと前だけ向いていた。早鐘をうつような鼓動の音が耳にうるさい。急ぎ足のせい、というのはさすがに言い訳としては苦しすぎた。
 ちらりと見えたギュスターヴの上半身はしなやかな筋肉がついて引き締まっていた。鋼の剣を片手に、鍛え上げてきたものなのだろう。腕の筋も厚い胸板も一瞬しか瞳にうつらなかったはずなのに、勝手に脳裏によみがえってくる。
 見知っていた少年はすっかり大人の男にかわっていた。そのことにレスリーは気づいてしまったのだ。


First Written : 2021/06/12