酔い醒まし - 2/2

  * * *

 扉をノックし、声を掛けても案の定返事は無かった。それくらいで出てくるようならレスリーがわざわざ呼ばれることもないのだ。
「ギュスターヴ、入るわよ?」
 その呼びかけだってきっと聞こえていないのは承知の上で、レスリーは扉を押し開けて部屋に足を踏み入れた。
 奥には広く豪奢な寝台がある。その中心に鎮座する大きな『山』に彼女は近づいた。
 規則的な息遣いに肩がゆっくりと上下し、長く伸びた金髪が横に向いた顔の半分を覆っている。大の字に寝ているのかと思えば、意外と控えめな姿勢に少し笑みがこぼれた。
「ギュスターヴ……ギュス。起きて」
 目元を隠す髪を払うように手を伸ばすと、ギュスターヴは僅かに身動ぎをした。触られるのが嫌だったのか、レスリーの手にギュスターヴの指が添えられ、シーツへと下ろされてしまう。
 ギュスターヴはレスリーの手を軽く握ったまま、微睡み続ける。レスリーは敢えて振りほどくことをせず、彼の寝顔に見入った。
 ——束の間の、彼女だけの贅沢な時間。
 務めを忘れ、少しでも長く、と願ってしまう。
 刹那。
「レ、スリー……、す、きだ……」
 ギュスターヴが鼻から抜ける吐息の合間に漏らした声で、彼女の秘密の時間は凍りつき、そして急速に世界が動き出した。
「ギュスターヴっ!」
 慌てて体を離したレスリーが窓際へと後ずさり、閉まっていたカーテンを開く。あふれだした光がギュスターヴの顔を明るく照らした。顔を顰めた彼が、今度こそ大きく身動ぎをする。
 うぅ、と呻き声をあげて寝返りをうつ彼の肩をレスリーが叩いた。
「ギュス、ねぇ、ギュス。起きなさい」
「んー、あぁ、レスリー……?」
 まだ覚醒しきってないギュスターヴが、顔だけ振り向いて瞬きを繰り返す。
「なんで、ここにいるんだ?」
「あなた、また飲みすぎたでしょう?」
 やや早口になってしまう自分を感じながら、レスリーは気取られないようにと胸の前で腕を組んだ。

 


First Written : 2022/10/23