身の程知らず
――貴女は何に怯えているのですか?
随分と不躾な言い方をしてしまったものだ。
自分がその言葉を発した時の、エリカ王女のハッとした顔。その顔はみるみると曇り、見間違いでなければその目尻は潤いを帯びていた。背を向けられ、一言二言の後に去られた為、実際のところはわからない。
思わずこぼれ落ちてしまったが、王女相手に発していい言葉ではなかった。二度と顔を見せてくれぬだけならまだしも、最悪、罪に問われるかもしれない。
しかし、とマフレズは思う。
剣を握った凛とした佇まいに、自分は得体の知れぬ歪みを感じたのだ。強さを求める彼女が、純粋に力を得ることに喜びを感じているようには見えなかった。
まるで何かに追い詰められているかのように。そうでもしなければ、己が保てないかのように。
あるいは彼の思い過ごしだったのかもしれない。マフレズに、自分が構えた剣を叩き落とされ、負けたことの羞恥に震えていただけなのかもしれない。
――しかし。
彼の思考は輪を描くようにまた巡り戻っていく。
――貴女は何に怯えているのですか?
願わくは、その原因を取り除いて差し上げたい、なんて身の程知らずもいいところではないか。