その背中を - 3/3

弱き者

 王城の敷地の片隅で、ここなら誰にも見られまいとエリカは顔を覆った。
 自分はなんという痴態を晒してしまったのか。後悔と恥辱がごちゃ混ぜになって彼女を苛む。

 ――貴女は何に怯えているのですか?
 降って落ちてきた言葉に心臓を鷲掴みにされた心地だった。

 強くなったつもりだった。
 実際、剣術の腕はそれなりに磨かれたはずだった。レブラントとの仕合でも勝てるようになってきた。そこでレブラントは、彼以外の剣筋を学ぶべしと、マフレズに声を掛けたのだ。若手で一番有望なのだと聞いた。
 エリカはマフレズと剣を打ち合い、そしてあっさりと負けてしまった。それだけでも十分恥ずべきというのに、涙を滲ませるなど……
 ――万が一、父が見ていたなら。
 その想像だけで彼女の心に冷たく鋭利な刃が突き刺さり、身体が恐怖で震えた。
 女として生まれてしまったのだから、誰よりも強くあるべきと己を叱咤し続けてきた。自分の手で守るべきものを守れるように、誰にも負けぬように。
 誰にも負けてはいけなかったのに。

 ――貴女は何に怯えているのですか?
 でも本当に唾棄すべきなのは。
 ほんの言葉一つで、泣きじゃくり縋りつきたくなってしまった己の心の弱さだった。

 染みついて離れない温かい声音ごとかき消す様に、エリカは涙を拭った。

 


First Written : 2021/09/08