弱き者
王城の敷地の片隅で、ここなら誰にも見られまいとエリカは顔を覆った。
自分はなんという痴態を晒してしまったのか。後悔と恥辱がごちゃ混ぜになって彼女を苛む。
――貴女は何に怯えているのですか?
降って落ちてきた言葉に心臓を鷲掴みにされた心地だった。
強くなったつもりだった。
実際、剣術の腕はそれなりに磨かれたはずだった。レブラントとの仕合でも勝てるようになってきた。そこでレブラントは、彼以外の剣筋を学ぶべしと、マフレズに声を掛けたのだ。若手で一番有望なのだと聞いた。
エリカはマフレズと剣を打ち合い、そしてあっさりと負けてしまった。それだけでも十分恥ずべきというのに、涙を滲ませるなど……
――万が一、父が見ていたなら。
その想像だけで彼女の心に冷たく鋭利な刃が突き刺さり、身体が恐怖で震えた。
女として生まれてしまったのだから、誰よりも強くあるべきと己を叱咤し続けてきた。自分の手で守るべきものを守れるように、誰にも負けぬように。
誰にも負けてはいけなかったのに。
――貴女は何に怯えているのですか?
でも本当に唾棄すべきなのは。
ほんの言葉一つで、泣きじゃくり縋りつきたくなってしまった己の心の弱さだった。
染みついて離れない温かい声音ごとかき消す様に、エリカは涙を拭った。
First Written : 2021/09/08